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インスリン

インスリン開始による体重増はBMIが低い患者に起きやすい

更新日:

Factors Associated With Weight Gain in People With Type 2 Diabetes Starting on Insulin
Diabetes Care 2014;37:2108-2113

通常、インスリン治療を始めるとひどくはないものの、ある程度太ってしまうものである。患者サイドでも、インスリンを使うと余計太るという不安からインスリン導入に難色を示場合もある。血糖コントロールが不良な場合は躊躇なくインスリンを使ってしまうものだが、インスリンによる体重増加には常に気を配る必要がある。
本研究は優れているが、限界もある。ベースラインの体重の違いによって体重増加量の捉え方に差が生じること、またコントロール不良だったために痩せてしまったのが、インスリン導入によって血糖改善したために「戻る」(太るのではなく、悪い痩せ方をしたのを回復すると考えるべき)を念頭に置いていないことである。

目的
通常、インスリン治療を始めるとひどくはないものの、ある程度太ってしまうものである。体重増加に関連するファクターを特定し、定量化することを目的とする。

方法
CREDIT ( Cardiovascular Risk Evaluation in people with type 2 Diabetes on Insuln Therapy) 非介入試験がインスリン治療を新規開始した2型糖尿病2,179人を対象に12カ国314施設で行われた。インスリン開始12ヶ月後の体重を調べ、ベースラインと比較。体重増加に関与する各々の時点での要因は何かを調べる。

結果
2型糖尿病2,179人を1年間フォロー、体重の変化をみた。体重増加の予測因子となりえるものを調べた。平均1.78Kgの体重増がみられ、24%は5Kg以上体重が増えた。体重増加に関連したベースラインの因子としては、BMI、HbA1c、インスリン治療方式、インスリン量、そのほかの血糖降下療法の有無、高血圧などであった。1年後の追加因子としては、HbA1c、インスリン治療方法、インスリン量、そのほかの血糖降下療法の有無(ビグアナイド薬、SU薬など)などであった。多変量解析を行った結果では、インスリン開始前および1年後の体重増加と関連する因子は、ベースラインHbA1c高値、ベースラインまたは1年後のインスリン量が多いこと、ベースラインでのBMIが低いことであった。

結論
インスリン療法開始までに、ベースラインHbA1c高値であること、インスリン必要量が多いことがベースラインBMIが低いことと同様に、独立して体重増に相関した。インスリン療法のレジメン自体は予測因子となりえない。

良好な血糖コントロールをすると細小血管障害を長期間予防できるし、大血管障害をも予防もしくは進行抑制できるとみられている(1-3)。インスリン療法は良好な血糖コントロールに到達、維持するための手段だが(4,5)、インスリン療法を始めると通常体重が増加してしまうものである,(6-8)

実臨床において適切な時期にガイドラインが必要になり、個々の患者の性質や要望に応じインスリン療法の開始が必要になる。この選択において体重増加は重要なファクターになるし、肥満した糖尿病患者においては(体重増加の懸念から)インスリン導入を遅らせざるを得ないこともしばしばある。ある無作為化臨床試験のメタアナリシスによれば、1日2回もしくは各食前のインスリン療法を受けた群よりも基礎インスリン群のほうが1年後の体重増は少なく、1日2回もしくは各食前のインスリン療法の間では差がなかったということが示されている(7)

CREDIT ( Cardiovascular Risk Evaluation in people with type 2 Diabetes on Insuln Therapy) は4年間の非介入国際縦断的試験で、日常臨床において新規インスリン導入患者の血糖コントロールと心血管イベントの発症を評価し、2型糖尿病のインスリン治療に示唆を与えようと企図したものである(9,10)。本稿ではCREDIT studyにおいてインスリン導入後1年後の体重増に関連する因子を検討した。

METHODS
EU10カ国とカナダ、日本の計12カ国314施設で行われた。40歳以上の男女が対象。

RESULTS
Analysis
CREDIT studyはベースラインで3,061名の参加者がいて、体重変化があったのは2,179名。882名は体重データの欠落があり、2,179名が解析された。男性が多く、北米・北欧からの参加者が多く、東欧が少なかった。SU剤やビグアナイドを内服していたものは少なく、大血管障害の既往のあった者は少なかった。喫煙者、食前インスリンを打っているものがより多かった。
 2,179名のうち、体重増は1.78Kg (中央値 2.0 Kg)、これは患者の国籍によって異なっていた。一番体重が増えたのはポルトガルで4.26Kg増、40%の参加者が5 Kg以上体重増加していた。ドイツが平均の体重増が最も少ない国で0.95Kg増にとどまった 。5 Kg以上増えたのは15%であった。体重増は1,077名の男性、1,102名の女性でみられ男性の中央値は 2 Kg, 一方女性の中央値1.95 Kg と似通っていたが、女性のほうがバラツキが少なかった。
 インスリン開始時の各患者の特徴 (Table1)、開始1年後 (Table2)が一年後の体重増の階層別に示されている。1年後に太ってしまったのは、インスリン開始時によりBMIが低く、HbAcがより高く、高血圧と診断されたものは少なく、基礎インスリン単独療法のものは少なく、強化インスリン療法により多く、SU剤やビグアナイド使用者に少なかった(インスリン投与量は多かったのに)。1年間インスリン治療を受けたあと、最も体重が増えたのは1年間HbA1cが高かった群で、基礎インスリン単独群には少なく、一方で強化インスリン療法に多かった。ビグアナイドやSU剤使用者に少なかった(インスリン投与量は多かったのに) (Table2)。相関なし。

Multivariable Analysis
インスリン開始前のファクターが多変量解析にかけられたら、ステップワイズ法がより高いHbA1cとより低いBMIを体重増加の予測因子として選定した。(Table3)
例えば、ベースラインBMIで調整後、HbA1cが8%の患者は7%の患者と比べて0.5Kg体重が増えることを予測した。またベースラインHbA1cで調整後、BMIが4kg/m2高い患者は0.5Kg体重が増えにくいことを予測した。
 インスリン開始前、インスリン開始1年後の種々のファクターのなかでステップワイズ法は次の因子を体重増の予測因子として選定した(ベースラインHbA1c高値、ベースラインと1年後のインスリン量が多いこと、ベースラインBMIが低いこと)(Table3)。他の因子も調整した後、インスリン開始1年後にインスリン量が0.4U/Kg/dayに比べ0.6U/Kg/day (つまり50%多い場合)では0.5Kg体重が増えることを予測した。1年後のHbA1c,HbA1cの変化には予測できるような差がなかった。

CONCLUSIONS
今回の先進国におけるインスリン療法の多変量解析は、4つの独立した体重増加予測因子を示唆した。インスリン開始前のHbA1cレベルは比較的強力な予測因子といえるが、より高いBMIは体重増加が起こりにくことを予測した。この2つの予測因子にとって、体重増加の違いは実臨床において違った患者像を示唆する。インスリン量についても同じことが言えて、ベースラインも1年後も0.5Kg以上の体重差が生じうるが、これは日常臨床においてよく遭遇することである。面白いことに、これを多変量解析モデルに放り込むとインスリン治療レジメンそのものは予測因子たり得なかった。これは多変量解析にまだ残されている要素に単変量解析モデルが関連しているからであろう。
 我々が既にpublishしたCREDITの傾向スコアモデルでは、インスリン治療のレジメンがペア比較されている(9)。この解析手法は、処方医によって処方内容を調整しうる被検者の特徴を説明する。基礎インスリンとプレミックスを比較すると、両群で治療を受けた343名の被験者をベースラインの特徴でマッチングさせると体重増加は基礎インスリン群で1.3Kg少なかった(p<0.001)。しかしながら、プレミックスで治療を受けた群は基礎インスリン群より明らかに多いインスリンが投与されていた。各々39対30単位(p<0.001)。基礎インスリンとBBTを比較すると、200人でマッチングを行って、基礎インスリンのほうが1.4Kg太りにくかった(p<0.001)。インスリン量は各々30対46単位(p<0.001)であった。他に可能性の残る6つのペアについてはレジメンと体重増加に有意な関係を認めなかった。症例数が少なかった。インスリンレジメンを云々するのは今更感がある。
 我々の結果とUKPDSを比較してみる。1年間のインスリン治療後、体重増加の中央値は2Kg(UKPDS) 11) 2.5Kgまでの体重増加の平均値、新しく診断された糖尿病患者12)。体重増加量の平均は我々の研究と等しかった。46研究の最近のメタアナリシスでインスリン治療1年間後の体重増が検討されたが、結果が不十分なものにとどまった。全てのレジメンをプールしたら、インスリン投与量は体重増加と相関した。基礎インスリンを除いて。我々の研究では体重増加に対するインスリン量とレジメンの間の相互作用はみられなかった。Diabetes Therapy Utilization; HbA1cの変化、体重およびその他のファクター調べた、週1回投与のエキセチドを用いた介入試験、DURATION-3では基礎インスリン-Glarigine-で治療した26週後は1.4Kg体重が増えていた。ORIGIN試験ではIFG,IGT,未投薬の新規2型糖尿病患者で心血管イベントハイリスク患者は6.2年間Glargineを使って1.6Kg増であった。
 いくつもの臨床試験がhead-to-headで大きな母集団で異なる薬剤の比較をしている、観察試験というものは患者集団のなかでどのように種々の薬剤が、より一般論的に使われているのかをみるものだ。体重増加について論じた論文はほとんどpublishされていない。我々の研究結果はある単一の施設のレトロスペクティブ研究と同じ結果を示している15)。非介入試験であるA1chievement試験は世界中の異なる国、異なる2型糖尿病集団を対象にしている4)。Detemirで治療されていた群について言えば、24週後の体重増はインスリン量と相関しなかった16)。大きなUK General Practice Reserch Databese17)において新規インスリン導入された2型糖尿病患者の体重増は、プレミックスが他のレジメンよりも大きかった。しかし、インスリン量についての情報がない。Health Improvement Network databeseは1,492名の18歳以上の新規糖尿病患者で診断から6ヶ月以内にインスリンが必要になった者を対象にしているが、インスリン治療に反応した者(最初の18ヶ月以内にHbA1cが7.5%以下に改善したもの)18)。こういった患者は潜在的にSPIDDMだった可能性が高いだろう。しかしながら、18ヶ月後の体重増加は2.4Kgだったが、最初のインスリンレジメンは予測因子足り得なかった。インスリン量の情報が欠落していたからだ。こういったファクターの相関は将来的に大きなデータベースで研究する際のメリットとなる。
 医療機関のみならずインスリン量で調整(多変量解析につきものだが)したところ、より少ないBMIが体重増加の予測因子となった。これは大きな患者数をベースにして、はっきりとわかる発見であるのだが、より肥満な患者の runaway weight gainと裏腹なものに思える。しかし、これは説明がつくことだ。まず、ベースラインのBMIはベースラインの体重に密接に相関する。体重増の差分はベースライン体重を含んでおり、BMIが大きいほどその差分は小さく見える。次に、時間の経過とともに平均BMIまでBMIが下がっていくこともあろう。治療前のHbA1cが9.5%もあって、悪い体重減少が先行している場合などがそれだ。三番目に、逆の臨床的受け止めが、特にBMIの高い患者群によってもたらされうるということだ。それにもかかわらず、すごく太ってしまった患者群であっても、我々の研究ではベースラインBMIはそう変わらなかったのだ。インスリン開始時にBMIが低かったの理由のひとつは、1型糖尿病、膵性糖尿病、膵臓癌などの特異な症例が含まれていたからだろう。こういう状態の患者は当初は含まれていた者もあったが、試験からは除外された。責任医師がこういったとタイプを間違って(2型に)帰属させた、あるいは病型を良く覚えていなかった可能性は残る。少数のSPIDDM,膵性糖尿病が含まれていいたのだろう。
 ADVANCE試験では5年の試験期間中、19%の2型糖尿病患者が初めてインスリンを開始された。経口剤、注射剤、その併用、あらゆる治療法のなかで一番体重が増えたのはベースラインBMIが低い人だった。UK Generel Practice Reserch Databeseを用いてワトソンらによって唱えられていた仮説17)では、新規インスリン導入患者では、ベースラインBMIがより高いほうが体重も増えやすいとなっていた。しかし、結果は正反対だった。24週の全ての期間において体重増加とBMIは反比例した。2,042人の患者の多変量解析解析をしてもこの結果が有意なことは変わらなかった。我々の研究と一致して、ベースラインHbA1cが高いほうが体重増加するという結果を示している。Health Improvement Netowork Studyでは、18ヶ月の平均体重増加が2.4Kgで、これもまたBMIが低いほうが体重増加しやすいと出た18)
 我々の大規模な観察試験にも限界はある。なぜGlargine治療を受けない人がいるのか?その理由である。例えば、インスリン治療に対する恐れ、体重増加の恐怖などだろう。内科医が個々の患者にどのような治療を施すのか、そのターゲットは何かを知ることはできない。研究では、実際にどんなインスリンの使われ方がされているのか、その結果どのくらい太るのか、ということくらいしかわからないのだ。臨床試験では非常に限定された患者層に対峙できるのとは対照的だ。しかし、この国際的研究で食習慣や糖尿病治療プロトコルまでも追跡していた国々もあった。さらに、参加医療機関が必ずしもその国のやり方を代表しているわけでもない。統計学的には、我々が医療機関に説明を行い、環境整備を行って、結果がより一般的になるようにしているのである。アナログ製剤、ヒトインスリン製剤のどちらを使っているのかは我々は知り得ない。よって、どちらも似たようなものだと考えるしかなかった。また、最初に登録された患者の30%までもが十分な臨床情報を提供いただけなかった。そのため、解析に含めることができなかった。これがどうバイアスをかけているのか表現するのは難しい。
 体重増加に関するこの国際的研究でわかった主因は、インスリン量の多いこと、インスリンのレジメンは関係がないこと、ベースラインHbA1cが高いこと、ベースラインBMIが低いことである。あわせて考えると、こういうことが言えるだろう。もし、体重増加を防ぎたいのだったらHbA1cが高くなりすぎて痩せてしまう前に使うべきだ。β細胞が経時的に減少していく20)ことを考慮しても、インスリン量はあまり多くならないだろうし、体重増加を和らげてくれるだろう。また、こういった結果によって、実地医家がやせた糖尿病よりも太っていてさらに太るリスクのない患者にインスリンを使うことを正しいことだと思わせてくれる。しかし、実臨床においては太るはずがないライフスタイルを実践しているのにインスリンで太ってしまうヒトがいるのも確かである。

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