DPP-4

ビルダグリプチンによる2型糖尿病患者の肝障害がリナグリプチンに変更したら改善した

27/04/2015

ビルダグリプチンによる2型糖尿病患者の肝障害がリナグリプチンに変更したら改善した

Idiosyncratic Liver Injury Induced by Vildagliptin With Successful Switch to Linagliptin in a Hemodialized Diabetic Patient

DPP-4阻害薬の肝障害はクラスイフェクト?

DPP-4阻害薬の肝障害はクラスイフェクト?

Diabetes Care 2014;37:e198-e199

近年、DPP-4阻害薬に関連する肝障害の報告がいくつかなされている1)2)。DPP-4はリンパ球やマクロファージに発現しているCD26と同じものであるため、CD26によるT細胞の活性化を阻害することで免疫調節に影響を与えているのだ、だから肝障害はDPP-4阻害薬のクラスイフェクトであるという前提に立っているものもある

3)

しかしながら、肝障害がDPP-4阻害薬のクラスイフェクトなのかある薬剤に特異的なのかを明示した報告は未だなされてはいない。今回われわれは、ビルダグリプチンによって誘発された可能性のある肝障害症例を報告する。

症例は65歳女性。糖尿病性腎症によって慢性腎不全となり、人工透析を受けているが、ゆっくりと肝不全をきたした。投薬内容はインスリン(4単位/日)、アカルボース(150mg/日)、グリクラザイド(10mg/日)。この投薬ないようでHbA1c 7.6%であった。肝障害は明らかでないことを確認したあと(2013年3月)、ビルダグリプチン(50mg/日)が開始され、代わりにインスリンは中止となった。ビルダグリプチン開始から2週間後、肝機能の軽度上昇がみられた(2013年4月)。しかしながら、アカルボース、グリクラザイド、ビルダグリプチンは継続された。ビルダグリプチン開始から8ヶ月後、血清トランスアミナーゼ値は AST 178 IU/L, ALT 299 IU/Lまで上昇した(2013年11月、Table 1)。ALP,γ-GTPも同様に上昇がみられた。HBs抗原,HCV抗体,抗核抗体,抗ミトコンドリア抗体は検出感度以下であった。腹部単純CTにて肝と胆管には著変がないことが示された。アカルボース、グリクラザイドは中止された。

アカルボース、グリクラザイドを中止してから一週間後、ビルダグリプチンに対するリンパ球幼若化試験(LTT,薬剤惹起性のリンパ球刺激を調べる検査として知られる)が陽性と出た (stimulation indexが3.1 基準値は1.8以下)。 ビルダグリプチンによる薬剤性肝障害と診断され、リナグリプチン5mgに切り替えられた。さらにグリクラザイドが再開された。毎週肝機能をチェックしていったところ、ビルダグリプチンをやめてからASTが徐々に低下していった。さらに、リナグリプチンに対するLTTは陰性だった。ビルダグリプチン中止4ヶ月後(2014年4月)、肝機能はほぼ正常化した(Table1)。

本症例は、これまで報告のなかったビルダグリプチンに特異的な薬剤性肝障害を示唆した。また、ビルダグリプチンからリナグリプチンに切り替えたことでトランスアミナーゼが正常化した。つぎに、LTTは薬剤性肝障害の診断によく用いられるのだが4)、ビルダグリプチンでは陽性だった一方でリナグリプチンでは陰性だった。

いくつか制限を記しておかねばならない。まず、他の糖尿病薬による肝障害の可能性を完全には排除できない。しかし、ビルダグリプチンの内服にともなって上昇したトランスアミナーゼ値がその中止によって改善したことは、ビルダグリプチンが肝障害の原因であったことを裏付けものである。ついで、リナグリプチンを除くDPP-4阻害薬は透析患者においては用量調節が必要だ5)。しかし、本症例に対するリナグリプチン50mgの投与は最近の試験を考慮しても過量投与とは言いがたい

5)

DPP-4阻害薬による肝障害の機序について理解するにはさらなる検討が求められる。

文献

1. Kutoh E. Probable Linagliptin-induced liver toxicity: a case report. Dabetes Metab 2014;40:82-84
2. Toyoda-Akui M, YOkomori H, Kaneko F, et al. A case of drug-induced hepatic injury associated with sitagliptin. Intern Med 2011; 50:1015-1020
3. Iwata S, Yamaguchi N, Munakata Y, et al. CD26/dipeptidyl peptidase IV differentially regulates the chemotaxes of T cells and monocytes toward RANTES: possible mechanism for the switch from innate to acquired immune response.Int Immunol 1999; 11:417-426
4. Mayorga C, Sanz ML, Gamboa P, Gracia-Aviles MC, Fernandez J, Torres MJ. In vitro methods for diagonosing nonimmediate hypersensitivity reactions to drugs. J Investig Allergol Clin Immunol 2013;23:213-225;quiz 225
5. Flynn C, Bakris GL. Noninsulin glucose-lowering agents for the treatment of patients on dialysis. Nat Rev Nephrol 2013;9:1147-153

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