高齢者糖尿病の血糖管理目標がやっとできた。当然あるべきであった下限値もやっと設定した。
今更ながら、やっと対応した。日本糖尿病学会と日本老年医学会は5月20日に高齢者糖尿病の血糖コントロール目標値をようやく発表した。JDS59にやっと間に合せたのだ。ADLレベル、認知機能、薬物療法の内容などによって7.0%未満-8.5%未満の間で細かくHbA1cの目標値を策定した格好だ。最重要課題と思われていた、重症低血糖が危惧される薬剤の使用例では「下限値」をようやく作った。
高齢者では低血糖にしないことのほうが寧ろ重要である
高齢者糖尿病患者は低血糖を起こしやすいことは論を俟たない。よく知られていることだが、低血糖は高齢者では転倒・骨折、認知症、うつ病、QOL低下のリスクとなる。これはさんざん日本老年医学会が提唱してきたことだ。逆に認知症やうつ病があると、低血糖を起こしやすい。高齢者糖尿病ではHbA1cが高過ぎても低過ぎても、ADLや認知機能が低下するJカーブ現象の存在が認められている。これも周知の事実だ。合併症防止を目指した高血糖是正をはかるとともに低血糖の回避する、この二兎を追わなければならない宿命を負うのが、高齢者糖尿病治療なのである。個人個人でバラツキが大きいのも高齢者糖尿病患者の特徴だ。 欧米では既にこのような高齢者糖尿病の特性に配慮した血糖管理指針が提案されている。わが国でも遅ればせながら2015年4月、日本糖尿病学会と日本老年医学会が「高齢者糖尿病の治療向上のための合同委員会」を設立した。高齢者糖尿病の診療ガイドライン作成のための作業を進めてきたが、今回まず血糖管理目標値を策定し、JDS59の両学会合同シンポジウム「高齢者の糖尿病治療をどうするか」で公表した。今回発表された血糖管理目標は、熊本宣言を補完するものと言えるだろう。具体的には、同宣言では合併症予防のための目標としてHbA1c7.0%未満を大きく打ち出すとともに、患者の個別性に配慮することも強調した。「血糖正常化を目指す際の目標」として同6.0%未満、「治療強化が困難な際の目標」としては同8.0%未満も掲げた。後者は高齢者を強く意識した目安で、今回この目安がより精緻に検証されたことになる。
より細かな目標値を設定した。インスリン製剤・SU薬使用の場合には下限値を設けた。
今回発表された血糖管理目標では、高齢者糖尿病を患者の特徴や健康状態により下記の3つのカテゴリーに分類した。
- カテゴリーⅠ:①認知機能正常、かつ②ADL自立
- カテゴリーⅡ:①軽度認知障害~軽度認知症、または②手段的ADL低下、基本的ADL自立
- カテゴリーⅢ:①中等度以上の認知症、または②基本的ADL低下、または③多くの併存疾患や機能障害
年齢や薬物療法の内容により、カテゴリーごとに段階を分けたHbA1c管理目標値を策定した。
<重症低血糖が危惧される薬剤の使用がない場合>
- カテゴリーⅠ:7.0%未満
- カテゴリーⅡ:7.0%未満
- カテゴリーⅢ:8.0%未満
<重症低血糖が危惧される薬剤の使用がある場合>
- カテゴリーⅠ(65歳以上75歳未満):7.5%未満(下限6.5%)
- カテゴリーⅠ(75歳以上):8.0%未満(下限7.0%)
- カテゴリーⅡ:8.0%未満(下限7.0%)
- カテゴリーⅢ:8.5%未満(下限7.5%)
重症低血糖が危惧される薬剤とは、主にインスリン製剤とSU薬を指す。グリニド薬も一部は該当する可能性がある。低血糖を回避するため、上限値を最大8.5%まで緩和するとともに、下限値を設定した。遅すぎる対応だが、無いよりはマシだろう。