GLP-1

インクレチン(GIP/GLP-1)と糖尿病新薬

06/09/2009

インクレチン(GIP/GLP-1)と糖尿病新薬

消化管に存在するインスリン分泌に関連する因子であるインクレチンが注目されている。GIP(Gastric Inhibitory Polypeptide)とGLP-1(Glucagon-Like Peptide-1)が発見され、糖尿病治療薬の新しい標的因子として研究・開発が進められている。

GLP-1とGIP

インクレチン

GIPは主に小腸上部のK細胞から、GLP-1は小腸下部のL細胞から分泌され、ともに糖質によるインスリン分泌を促進する作用や、膵β細胞保護作用を持つ。しかし、膵外では異なる作用を示し、GIPは脂肪細胞に作用して体重増加を引き起こすが、GLP-1はグルコース依存性のインスリン分泌促進、膵β細胞の増殖作用、食後のグルカゴン分泌抑制による肝糖新生の抑制、胃排泄能の抑制、中枢性食欲抑制作用など糖尿病患者さんにとっては好ましい作用をいくつも持つとされている。

インクレチンは糖質や脂質などの腸管への流入に伴って分泌される。糖の吸収が盛んな小腸上部ではブドウ糖が直接K細胞を刺激し食後30-60分という比較的早期からGIP分泌は起こり、その分泌量も多い。一方、GLP-1は食物摂取の際の神経刺激あるいはL細胞へのブドウ糖の直接刺激により分泌され、2型糖尿病では分泌低下しているとの報告もある。

現在、新しい糖尿病治療薬として非常に大きな注目を浴びている2つのタイプの薬剤をご紹介する。

DPP-4阻害薬

インクレチンは分泌後,速やかに(数分で)蛋白分解酵素のジペプチジルペプチダーゼIV(dipeptidyl peptidase-IV;DPP-IV)によって分解される。DPP-IV活性を阻害して内因性インクレチン濃度を高めるインクレチンエンハンサー(DPP-IV阻害薬)が開発されている。米Merckの開発した「シタグリプチン」が、わが国でも間もなく市場に出てくる(万有の「ジャヌビア」と小野の「グラクティブ」)。1日1回経口投与で良いというのが大きな魅力である。低血糖の発現を気にすることなくHbA1cを効率よく下げられるという意味で画期的であるが、次に述べるGLP-1アナログに比べるとHbA1c低下作用は弱く、体重減少も認められないという弱点もある。また、DPP-Ⅳ阻害薬はインクレチンの活性を高めるだけでなく、種々の生体内に存在する生理活性ペプチドの分解にも関与するため、予想外の副作用が生じる可能性があるといわれている。

GLP-1受容体作動薬

DPP-IVによって分解されないペプチドの形でインクレチン作用を模倣するものだ。わが国では、皮下注射製剤として、ヒトGLP-1アナログ製剤の「リラグルチド」とGLP-1受容体アゴニストの「エキセナチド」の開発が進められている。DPP-Ⅳ阻害薬と異なり、皮下注射が必要だ。皮下注射によるリラグルチドの半減期は11~13時間で、1日1回の投与となる。一方、エキセナチドは半減期が3.5~4時間で、1日2回の投与が必要となる。そのため、利便性の向上を目的とした週1回投与製剤の開発も進められている。

(追記)イーライ・リリー社のMRさんから頂いた米国でのエキセナチドの薬価を記す。
250μg/mL, 1.2mL 214.08(US$)
250μg/mL, 2.4mL 251.22(US$)
用量は、一回5μgか10μgを一日2回ですので、25日分の薬価にあたります。 インスリンですとミリオペンで300単位1本が約1900円ですので、エキセナチドのほうが高い薬価になりそうです。 ただし、日本での薬価がいくらになるかは分かりませんので単純に比較は出来ないかもしれません。

(筆者注)1米ドル=90円で計算すれば、5μg/日で約23000円/30日、10μg/日で27000円/30日となる。一方、筆者の担当患者さんの場合インスリンを月5本程度処方するケースが最も多いが、5本/月であれば約9500円となる(マイクロファインプラスなどのコストは無視して計算)。 ただ、インスリンを代替する薬剤ではないので単純に比較はできないだろう。
両者とも欧米では既に臨床応用されている。わが国でも間もなく認可されるだろう。インクレチンを介した薬剤はこれまで経口インスリン分泌促進薬の主流であったSU剤に比べ低血糖の少なさが際立っている。糖尿病の薬物治療が根本的に変わる可能性がある。早く認可が下りて欲しいものだ。

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