GLP-1

リラグルチドの末期腎不全に対する有効性安全性

18/03/2016

リラグルチドの末期腎不全に対する有効性安全性

Liraglutide

Liraglutide

Safety and Efficacy of Liraglutide in Patients With Type 2 Diabetes and End-Stage Renal Disease: An Investigator-Initiated, Placebo-Controlled, Double-Blind, Parallel-Group, Randomized Trial

Diabetes Care February 2016 39:206-213.

2型糖尿病、末期腎不全患者に対するリラグルチド(ビクトーザ)の安全性と有効性について

プラセボ、二重盲検、対照群、ランダマイズドの試験。

目的

末期腎不全で透析中の2型糖尿病患者におけるリラグルチドの安全性と有効性にかかわる要因を明らかにすること。

方法

盲検でリラグルチドとプラセボに1:1に振り分けて12Wの試験を行った。注射量で補正したリラグルチドの血中濃度を最後に測定してプライマリーエンドポイントとした。

結果

24人の腎不全群と20人の対照群が完遂した。注射量で補正したリラグルチドの血中濃度は腎不全群で49%多かった。嘔気・嘔吐は腎不全患者で多かった。血糖コントロールは腎不全群も対照群もリラグルチド投与群で改善し、インスリン量も減った。体重は腎不全群も対照群もリラグルチド投与群で減った。

結論

末期腎不全の2型糖尿病患者ではリラグルチドの血中濃度が上昇し、消化器系の副作用が多くなる。量を減らしたり増量をゆっくりにすることが良いかもしれない。

糖尿病性腎症は頻度の高い合併症で、透析依存に発展しうる。米国では末期腎不全患者の45%に糖尿病がある。デンマークでは同23%である。いくつかの糖尿病薬は腎排泄なので、腎不全患者への糖尿病治療薬には制約がある。インスリンが重要な治療法となるが、それでもインスリン減量が必要になりうるし、低血糖のリスクが高くなり血糖コントロールが難しくなる。経口血糖降下薬では、ビグアナイド、α-GI,DPP-4阻害薬は末期腎不全患者には使えない。SU薬とグリニドは注意して使う必要があり、チアゾリジンは心疾患がなければ使える。DPP-4阻害薬の、リナグリプチン(=トラゼンタ)は末期腎不全でも用量調節不要で、サキサグリプチン(=オングリザ)、ビルダグリプチン(=エクア)、シタグリプチン(=ジャヌビア/グラクティブ)は減量すれば使える。しかし、DPP-4阻害薬の効果はしばしば不十分である。

GLP1受容体作動薬は低血糖のリスク少なく使える。しかし、GLP1受容体作動薬の末期腎不全患者に対する使用についてはデータが少ないため、推奨されていない。本研究の目的は、末期腎不全の2型糖尿病患者での血清リラグルチド濃度と有害事象について調査することである。
我々は、リラグルチドを推奨量で使用しても明らかな血中への蓄積なしに、末期腎不全の2型糖尿病患者にも使用しうるという仮説を立てた。

リサーチデザインとメソッド
デザイン、登録
デンマークの3施設で行われたプラセボ、二重盲検、対照群、ランダム化試験である。
末期腎不全の2型糖尿病患者と、腎機能正常の2型糖尿病患者の群を、各々さらにリラグルチド群とプラセボ群に1:1にランダムで振り分けた。介入期間は12Wで、各群の20人以上が6W以上完遂するまで行った。

参加者
2011年9月から2013年10月までの間に登録した。透析群は、18-85歳の男女で、血液透析または腹膜透析を受けており、スクリーニングの最低3か月以上前に2型糖尿病と診断され、グルカゴンテストで膵β細胞の機能が保たれているのを確認した人だ。
コントロール群は、18-85歳の男女で、正常腎機能(男性1.18mg/dl未満、女性1.02mg/dl未満)、スクリーニングの最低3か月以上前に2型糖尿病と診断され、HbA1c6.5%超の膵β細胞の機能が保たれているのを確認できた人だ。

研究デザイン
スクリーニングの日に、6分グルカゴン試験を行ってβ細胞機能を確認した。
スクリーニングの後、ランダム化の時点(0W)、1W、2W、4W、6W、8W、10W、12W、1W後フォローの13Wで来てもらった。来るたびに採血と有害事象の報告をしてもらい、血糖コントロールについて評価し、リラグルチド/プラセボ量を処方し、使用済みのパッケージを回収してコンプライアンスを評価し、リラグルチドやプラセボを含めた糖尿病薬を調整した。
血糖は1日3回(朝食前、夕食前、寝る前)SMBGで測った。来る日は朝リラグルチドを打たないで来てもらった。ランダム化の日、6W、12Wは8時間以上の空腹後で来てもらった。

中止
リラグルチドは0.6mg1日1回皮下注から開始して増量した。リラグルチドは朝食前に注射してもらった。血糖コントロールと副作用をみつつ、毎週0.6ずつ1.8まで増量した。低血糖のリスクを下げるため、インスリンは20-50%減量し、SUは中止した。メトホルミンは量変更なしとした。
結果
12Wでリラグルチドの血中濃度を測定してプライマリーエンドポイントとした。セカンダリーエンドポイントは重度の有害事象、有害事象、血糖コントロール、インスリン量の変化、体重、低血糖エピソード(血糖56mg/dl未満で、助けを必要としない軽度と助けが必要な重度に分けた。)、心血管系データ(心拍、血圧、脂質、ProBNP)とした。

過去のスタディでは腎機能正常ではリラグルチドの低値20000pmol/lでSD8000であったので透析モデルでどうのこうの。

ランダム化、盲検化
コンピューターでランダム化した。患者もスタッフも試験終了までブラインド。

解析、統計モデル
どうのこうの

結果
腎不全24人の14人がリラグルチド、10人がプラセボで、腎機能正常の23人の11人がリラグルチド、12人がプラセボだった。
(意味不明な文)
腎不全でリラグルチドの1人が8W後に夏季休暇でドロップアウトした。Fig1AとBにフローチャートを乗せた。グループは年齢、性別、BMIでマッチさせた。民族、喫煙、DM罹病歴は両群で同等だった。腎不全の75%、人生上の70%がインスリンを使用していた。腎不全患者はメトホルミン使用していなかったが、コントロールの80%でメトホルミンを使用していた。腎不全の2人、コントロールの一人が開始時点でSUを使っていた。データはテーブル1にまとめてある。

リラグルチドの量と血中濃度
腎不全群はリラグルチド増量がコントロールよりもゆっくりだったが12Wでは同等の量になった。(1.33mgと1.26mg。Fig2A)量で補正した血中リラグルチド濃度は腎不全群で49%高かった。(Fig2D)経過中ずっと腎不全群で補正後のリラグルチド濃度が高かった。
コンプライアンスはすべての群で良好だった。

血糖コントロール、治療薬の変更
HbA1c、血糖は両方のリラグルチド群で低下した。インスリン量もリラグルチド群の方が減量となった。
有害事象、重大な有害事象
多くは消化管系の副作用だった。嘔気・嘔吐が腎不全のリラグルチド群で多かった。(Fig3)しかし、嘔気・嘔吐は開始時か増量時の一時的なものであることが多かった。両方のリラグルチド群で畝矢家が多かった。一方でコントロールのリラグルチド群でだけ腹部不快感と下痢が多かった。低血糖回数は同等だった。重大な有害事象は腎不全群で多かった。(7例。うち6例がリラグルチド群)コントロール群では重大な有害事象はリラグルチド群の1例だった。ただし、試験薬と関連ある重大な有害事象はなかった。全例が入院した。死亡者はなし。2例が入院して試験薬中断のためドロップアウトした。

臨床的生化学的パラメータの変化
リラグルチドはコントロール群では体重を有意に減少させたが、腎不全群では有意ではなかった。心拍はリラグルチドで両群で増えた。血圧は2群で変化なし。主要な生化学検査項目はリラグルチドで変化なし。ProBNPは腎不全リラグルチド群で有意に減少したが、コントロール群ではみられなかった。LDL、HDLコレステロール減少がコントロールだけで見られた。

結論
本研究でわかったこと
注射量で補正したリラグルチド濃度は末期腎不全患者で腎機能正常患者よりも有意に増加する
リラグルチドがどんどん蓄積していくということはなかった。
リラグルチドで血糖コントロール悪化させずにインスリンが減量できた
末期腎不全の患者では腎機能正常に比べてリラグルチドの消化器系の副作用が出やすいよう
に思えた。
GLP1受容体作動薬の腎不全患者への安全性と有効性を見たスタディはほとんどない。GLP1受容体作動薬は5種類ある。エキセナチド(週二回バイエッタと週1回のビデュリオン)、リキシセナチドリキスミア、アルビグルチド(日本未承認)、デュラグルチドトルリシティ、リラグルチドビクトーザ。エキセナチドとリキシセナチドは糸球体ろ過され尿細管で分解されるため、現在いわれている使用量においては、進行した腎機能障害を持つ患者には適さないとされている。アルビグルチドとデュラグルチドはin vivoではどこでも分解されるが、使用経験が少ないためCCR30未満の重度腎機能障害患者には推奨されていない。
リラグルチドは血清たんぱくに良く結合し、特別の臓器に依存せずに分解されると考えられている。そのままのリラグルチドは尿には排泄されず、腎代謝は6%とわずかと考えられている。マルムなんとからは、リラグルチドは体内で完全に分解されることを示唆し、ダビッドソンらはメタアナリシスでCCR60-89の軽度腎機能障害はリラグルチドの安全性、有効性に影響しないと示した。ヤコブソンらの報告では、さまざまな腎機能障害の患者に0.75mgのリラグルチドを注射したが、末期腎不全かんじゃであっても蓄積なく、排泄に遅延がなかったことを報告した。
新しく出た4日間のオープンラベルのパイロットスタディでは、10人の日本人の2型糖尿病で末期腎不全の患者で0.6か0.9mgを注射してみているがこれはコントロールがない。しかし、末期腎不全患者でもリラグルチドの減量は不要であることを示唆している。140人の2型糖尿病、中等度腎機能障害(eGFR30-59)でリラグルチド1.8mg注射する26Wのランダム化試験がある。血中リラグルチドは測定していないが、予期せぬ安全性や忍容性の問題はなかった。少数の症例報告において腎機能障害がなかったか、軽度または中等度の腎機能障害があった患者へのリラグルチド投与で急性腎障害が出た関連を示唆するものがある。しかし、前述のスタディではそういうケースはなかった。
ヨーロッパメディスンズエージェンシーの声明では、CCR30超の軽度または中等度腎障害患者についてはリラグルチドは用量調節不要となっている。しかし、CCR30未満の重度腎機能障害患者については使用経験がないため、リラグルチドは現在は推奨され得ない。同様に、アメリカのフードアンドドラッグアドミニストレーションも使用経験が乏しいため注意して使うべきとしている。本研究はデータの少ないこの領域に対し新たなデータを提供するものである。

本研究では、透析依存の末期腎不全患者では有意にリラグルチドの排泄や分解が障害される結果となり、これまでの報告と合致しない。にもかかわらず、本研究では腎不全患者でリラグルチドの蓄積はみられなかった。(Fig2D)これはすなわち、腎臓だけがリラグルチドの排泄か分解にかかわっているということではないということだ。本研究は、重度の腎機能障害患者ではリラグルチドの減量が必要かもしれないことを示唆している。

血中リラグルチド濃度はリラグルチドの有害事象の頻度と重症度に相関している。老人や軽度腎機能障害患者では消化器系の副作用がでやすいことが知られている。これらの事実は本研究で末期腎不全群で嘔気や嘔吐が多かったことを説明するかもしれない。嘔気と嘔吐はリラグルチド開始や増量に伴う一過性のもので、治療後半に副作用がでた人はほとんどいなかった。したがって、減量したり増量をゆっくりやれば副作用を抑えられるかもしれない。

末期腎不全群でも安全性は高かった。末期腎不全群で重度の有害事象が多かったが、リラグルチドと関連のあるものはなかった。インスリンと併用した人の中でほんの少数例、軽度の低血糖がみられた。
末期腎不全ではBMIが高いほど死亡率が減り、Obesity paradoxと言われている。さらに、透析患者ではBMIがいくつでも体重減少するのは死亡率増加に関連する。

セカンダリーエンドポイントの多くについては結論を出せない。だが、HbA1c、血糖、糖尿病薬の量の変化は、リラグルチドの血糖改善効果は重度腎機能障害でも発揮されることを示唆している。我々の以前の研究では末期腎不全ではGLP1のβ細胞刺激作用は減少しているかもしれないと報告したが、今回、GLP1受容体作動薬のような高濃度では作用減少の影響を回避できることを示唆している。

本研究の限界を挙げると、比較的小規模でありプライマリーエンドポイントについてしか結論を出せなかった。たとえば膵炎のようなまれで重度の有害事象を起こすには大規模で長期間の研究が必要になる。また、本研究のプライマリーエンドポイントは臨床的ではない。腎不全群では嘔気嘔吐が良く起きた(Fig3)このため、リラグルチドによる副作用がマスクされたかもしれない。これについてはプラセボ群が役に立つ。血液透析患者は透析前に検査した。つまり、体液過剰で検査された。これは体重と血圧に影響し、リラグルチドによる体重減少と血圧変化の評価を困難にした。

結論として、本研究は末期腎不全でも2型糖尿病患者にリラグルチドを継続して使用して治療することは可能であることを示唆している。ただし、より大規模な研究でこれを確認する必要はある。減量や、増量をゆっくりにすることが嘔気や嘔吐を減らすために有用かもしれない。重度の有害事象の報告は少数で、リラグルチドとは関連がなかった。末期腎不全群でインスリン量が有意に減ったにもかかわらず血糖コントロールは悪化しなかった。末期腎不全群ではリラグルチドで有意な体重減少はみられな
かった。体重減少は、透析患者にはよくない効果かもしれない。

-GLP-1