メトホルミン

メトホルミンは腸管で作用する

05/02/2016

メトホルミンは腸管で作用する

メトホルミン 船橋市

1922 年、アイルランド・ダブリン Trinity Collegeの WernerとBellがジメチルビグアナイド(メトホルミン)の合成に初めて成功した。1929年、発熱 動物モデルにおけるジメチルビグアナイドの初期の生物学的作用を報告するふたつの論文がドイツから発表され、その血糖低下作用が偶然見出された。2型糖尿病患者さんに対して第一選択薬であるメトホルミン。まだまだ新しい発見がある。こんなに面白いものはそうそうない。これまでグルカゴンの計測が難しかったためによくわからなかったが、2013年になって「肝においてグルカゴン作用を阻害することにより空腹時血糖を低下させる」ことがわかった。群馬大の北村先生のグループがグルカゴンを安定して図れるシステムを開発中なので、期待したい。

今回言及するメトホルミンの徐放剤についてはかつて2010年に論じたことがある。我が国には通常型のメトホルミンしかない(Metformin IR)のだが、海外にはMetformin XRというものがあり、今回論じているMetformin DRというのがP2bであるようだ。Elcelyxという会社が、Metformin DR :metformin delayed-releaseという薬剤を開発している。メトホルミンの血中濃度を上げず、腸管内で作用させる。乳酸が上がりにくいなど、メリットも多い。船橋市の糖尿病治療に大きな貢献をするだろう。

目的

メトホルミン遅放剤(Met DR) は下部腸管で作用するように設計されている。腸管での作用を平坦化させ、血中濃度が急激に高まってしまうのを防ぐためだ。Met DRは2つのスタディで効能が評価されている。1つ目は通常のメトホルミン、extended-release metformin (Met XR)との健康成人における3者比較。2つ目はtype2DMに対する12週間studyだ。

方法

Study1はPhase1,20症例を対象としたクロスオーバー4-period ランダム化比較試験。Study2はPhase2,240症例対象のdose-ranging,12週の他施設プラセボ化 Met DR600,800,1000 とMet XR 1000,2000

結果

1000mgのMet DRの生物学的利用能はMet IR,XRの50%以下だった(Study1)
600,800,1000mgのMet DRは統計学的優位、臨床的に適切な12週刊の血糖改善作用をもたらした(対プラセボ)、Met XRより40%未満の効果減弱があった。12週のFPG低下レベルはHbA1c低下レベルに矛盾しなかった。すべての薬物療法の忍容性は高かった。

結論

腸管作用型のMet DRによって、メトホルミンの血中暴露と血糖降下作用が乖離することはメトホルミンは腸管で作用することを示している。

本文

メトホルミンが糖尿病治療に使用されるようになって50年以上経つが、メトホルミンの作用機序についてはいまだ議論の余地がある。歴史的に、メトホルミンの血糖降下作用は肝、骨格筋でのミトコンドリア機能、AMPK,グルカゴン受容体刺激によるアデニレートサイクレースを介して働くとされた。最近では、メトホルミンを静脈内投与するとレドックスシャトル酵素を阻害し、肝におけるレドックスステートが変わり、糖新生が抑制されるとわかった。しかしながら、経口投与のほうが経静脈投与より効果が高いことから、腸管に何らかの作用があるものと推定された。

メトホルミン即溶錠 (Immediate-release metformin; Met IR), メトホルミン徐放剤 (extended-release metformin; Met XR)は各々内服すると生物学的利用能は50%まで。大半は十二指腸、空腸で吸収される。重要なことは、メトホルミンは腸管内で代謝されず、遠く離れた腸管内の粘膜に血中濃度の300倍もの濃度で蓄積しているのである。Met IRは30%までは内服してすぐに消え、1000mg以下では効果が弱い。よって、1500mg以上内服しないと腸管遠位のトランスポーターを圧倒できないと考えた。どのくらいの量が必要なのか?

我々は回腸をターゲットとしたMetformin DR (delayed-release)を用いて、メトホルミンの吸収が弱い部位を調べた。Met DRは回腸で溶解するよう設計されている。
Met DRがMet IR,XRに比べて低い生物学的利用能を持つことを健常人を用いて(Study1)、低用量のDRが12週間2型糖尿病に投与してより低い腸管内で少なくとも同用量のXRと同等であることを示した(Study2)。

Study1

19-65歳の20名の健康男子、BMI 25-35 ランダム化。Met DR 500mg,1000mg Met IR 1000mg,2000mgを1:1:1:1 Met XRは1日1回夕食後(添付文書に従って)。DRは1日2回、IRは毎食後12時間毎。メトホルミンの血中濃度が定時に計測。

Study2

Phase2,240症例対象のdose-ranging,12週の他施設プラセボ化 Met DR600,800,1000 とMet XR 1000,2000 eGFR60以上 18-65歳の男女、BMI 25-45, ドラッグナイーブまたはメトホルミン/DPP-4i 併用 14-17日washout. HbA1c 7-9.5% (diet) 6-9.5%(drug) Cre< 1.5 (男) Cre< 1.4 (女)二重盲検でプラセボ,Met DR 600,800,1000mg 朝1回、Met XR 1000,2000mg 1:1:1:1:1:1
Primary end pointは4週目のHbA1cレベル改善 secondary 12週でのFPG,HbA1cレベル

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