1型糖尿病の合併症|網膜症・腎症・神経障害・予防

1型糖尿病の合併症は、微小血管合併症と大血管合併症に大別されます。適切な血糖コントロールにより、合併症の発症・進行を予防・遅延できます。

微小血管合併症

1. 糖尿病網膜症

高血糖により網膜の微小血管が障害され、視力低下や失明に至る合併症です。1型糖尿病では発症後5年以降からリスクが高まります。

病期分類

  • 単純網膜症:微小動脈瘤、出血斑、硬性白斑
  • 前増殖網膜症:軟性白斑(綿花様白斑)、静脈異常
  • 増殖網膜症:新生血管、硝子体出血、牽引性網膜剥離

スクリーニング

  • 1型糖尿病:発症後5年以降、毎年眼底検査
  • 散瞳眼底検査または眼底写真撮影

治療

  • 血糖コントロールの改善
  • レーザー光凝固術(増殖網膜症)
  • 硝子体手術(硝子体出血・網膜剥離)
  • 抗VEGF薬(黄斑浮腫)

2. 糖尿病腎症

高血糖により腎臓の糸球体が障害され、タンパク尿、腎機能低下、最終的に透析が必要になる合併症です。

病期分類

  • 第I期:腎肥大・過濾過
  • 第II期:正常アルブミン尿(尿アルブミン30 mg/gCr未満)
  • 第III期:微量アルブミン尿(30〜300 mg/gCr)
  • 第IV期:顕性アルブミン尿(300 mg/gCr以上)
  • 第V期:腎不全(透析・移植が必要)

スクリーニング

  • 1型糖尿病:発症後5年以降、毎年
  • 尿アルブミン/クレアチニン比(UACR)
  • 血清クレアチニン・eGFR

治療

  • 血糖コントロールの改善
  • 血圧管理(ACE阻害薬・ARB)
  • SGLT2阻害薬(腎保護効果)
  • タンパク質制限(進行例)

3. 糖尿病神経障害

高血糖により末梢神経が障害され、感覚異常、疼痛、自律神経症状が現れる合併症です。1型糖尿病の合併症の中で最も早期に発症します。

症状

  • 感覚神経障害:手足のしびれ、感覚鈍麻、疼痛
  • 運動神経障害:筋力低下、筋萎縮
  • 自律神経障害:起立性低血圧、胃不全麻痺、膀胱障害、発汗異常

スクリーニング

  • 1型糖尿病:発症後5年以降、毎年
  • 10gモノフィラメント試験
  • 振動覚検査
  • アキレス腱反射

治療

  • 血糖コントロールの改善
  • 疼痛管理(プレガバリン、デュロキセチン)
  • 自律神経症状の対症療法

大血管合併症

1型糖尿病患者は、2型糖尿病患者に比べて大血管合併症のリスクは低いものの、一般人口に比べてリスクは高いです。

  • 心血管疾患:冠動脈疾患、心筋梗塞
  • 脳血管疾患:脳梗塞、一過性脳虚血発作(TIA)
  • 末梢動脈疾患:下肢動脈硬化症

リスク因子

  • 高血糖(HbA1c)
  • 高血圧
  • 脂質異常症
  • 喫煙
  • 肥満
  • 糖尿病腎症の合併

合併症予防のポイント

  • 血糖コントロール:HbA1c 7.0%未満を目標(血糖コントロールとHbA1c)
  • 血圧管理:130/80 mmHg未満を目標
  • 脂質管理:LDLコレステロール 120 mg/dL未満を目標
  • 禁煙:喫煙は大血管合併症のリスクを顕著に高めます
  • 定期的なスクリーニング:網膜症・腎症・神経障害の早期発見

合併症の検査が怖いとき

合併症の検査は、結果を知るのがこわい、忙しくてつい後回しにしてしまう、といった理由で足が遠のきやすいものです。ここでは、それぞれの検査で何を見ているのか、先延ばしにしたときに何が変わるのか、こわさを小さくする受け方をまとめます。

検査で見ていること

合併症の検査は、症状が出る前に変化を見つけるために行われます。確認している内容と、一般的な受診の間隔は次のとおりです。間隔は血糖コントロールの状態や妊娠の有無などによって変わるため、実際の時期は主治医の指示に従ってください。

合併症の検査で見ていること
検査 見ていること 間隔の目安
眼底検査(眼科) 網膜の血管の変化(出血斑・硬性白斑・新生血管など) 発症後5年以降、年に1回程度
尿アルブミン(UACR) 腎臓の糸球体の障害の、ごく初期のサイン 発症後5年以降、年に1回程度
血清クレアチニン・eGFR 腎臓のろ過機能の低下の程度 年に1回程度(状態により増える)
神経障害のチェック(10gモノフィラメント・振動覚・アキレス腱反射) 足の感覚の低下や、自律神経の症状 発症後5年以降、年に1回程度
血圧・LDLコレステロール 心筋梗塞や脳卒中などの大血管合併症のリスク 受診のたびに確認

先延ばしにすると何が変わるか

合併症は、初期には自覚症状がほとんどないまま進むことがあります。一方で、早い段階で見つかった場合と、進行してから見つかった場合とでは、選べる対応の幅が変わります。

  • 網膜症:単純網膜症の段階では、血糖コントロールの改善と定期的な経過観察が中心になります。進行して増殖網膜症になると、レーザー光凝固術や硝子体手術などの治療を検討することがあります。
  • 腎症:微量アルブミン尿の段階では、血糖・血圧の管理によって進行を抑えられる余地が大きいとされています。進行すると、腎臓を保護する薬剤の調整や食事の相談が必要になります。
  • 神経障害:足の感覚が低下していることに気づかないと、小さな傷を作りやすくなります。状態を把握しておくと、フットケアで予防しやすくなります。
  • 大血管合併症:血圧や脂質の値は、測定してはじめて調整の必要が分かります。

検査そのものが体の状態を悪くすることはありません。結果が分かった時点でできる対応があること自体が、検査を受ける意味です。

こわさを小さくする受け方

  • 結果の見方を先に確認しておく:数値の意味と、どの範囲なら経過観察でよいのかを、あらかじめ聞いておくと結果を受け止めやすくなります。
  • 一度に全部やろうとしない:眼科と内科の予定を別の日に分けるなど、負担の少ない組み立てにしてもらえます。
  • 今回の目的を確認する:「今回は何を見る回か」を最初に聞いておくと、気持ちの準備ができます。
  • 前回の記録を持参する:前回と比べて変化がないことを確認できると、不安が小さくなります。
  • 「結果を聞くのがこわい」と伝える:伝えておくだけで、説明の順序や伝え方を工夫してもらえます。
  • 検査の間隔について相談する:必要以上に短くする必要はありません。次回の時期を一緒に決めておくと、先延ばしが減ります。
  • ひとりで受けなくてよい:家族や周囲の人と一緒に受ける、結果を一緒に聞くという方法もあります。

不安が強いときの相談先

結果への不安が続く、検査のことを繰り返し考えてしまう、気持ちが落ち着かない、眠れないといった状態が続くときは、そのつらさ自体を診察で伝えてください。合併症の不安に向き合う負担は1型糖尿病の疲れ(バーンアウト)で、相談できる窓口は相談先の一覧でまとめています。糖尿病療養指導士や看護師に、検査の受け方や結果の見方を相談することもできます。

よくある質問

1型糖尿病の合併症にはどんなものがありますか?

1型糖尿病の合併症には、網膜症・腎症・神経障害などの微小血管合併症と、心血管疾患・脳血管疾患・末梢動脈疾患などの大血管合併症があります。

糖尿病網膜症とは何ですか?

糖尿病網膜症は、高血糖により網膜の微小血管が障害され、視力低下や失明に至る合併症です。1型糖尿病では発症後5年以降からリスクが高まります。

糖尿病腎症の進行段階は?

糖尿病腎症は、尿アルブミン排泄量の増加から始まり、タンパク尿、腎機能低下、最終的に透析が必要になる段階まで進行します。早期発見・早期治療が重要です。

1型糖尿病の合併症は予防できますか?

はい、適切な血糖コントロール(HbA1c 7.0%未満)、血圧管理、脂質管理、定期的なスクリーニング検査により、合併症の発症・進行を予防・遅延できます。

1型糖尿病の合併症スクリーニングはどのくらいの頻度で受けるべきですか?

網膜症:発症後5年以降、毎年。腎症:発症後5年以降、毎年(尿アルブミン・血清クレアチニン)。神経障害:発症後5年以降、毎年。

合併症の検査が怖いと感じます。どう考えればよいですか?

合併症の検査は、症状が出る前に変化を見つけるために行われます。結果が分かってはじめて、血糖・血圧の管理やフットケアなど、その時点でできる対応を選べるようになります。こわさが強いときは、結果の見方を先に確認しておく、「結果を聞くのがこわい」と伝えておく、予定を分けて受けるといった工夫ができます。不安が続くときは、その気持ち自体も診察で伝えてください。

合併症の検査で異常を指摘された場合、すぐに治療が必要になりますか?

必要になる対応は、合併症の種類と段階によって異なります。たとえば網膜症の単純網膜症や、腎症の微量アルブミン尿の段階では、血糖コントロールや血圧の管理を整えながら定期的に経過を見ていくことが中心になります。進行している場合には専門的な治療を検討します。どの段階で何をするかは主治医の説明を確認し、次の受診までの過ごし方を相談してください。

検査結果が悪かったとき、どのように受け止めればよいですか?

HbA1cや尿アルブミンなどの値は、体調・感染・食事・睡眠などの影響で1回ごとに変動します。1回の結果だけで今後の見通しが決まるものではないため、前回からの変化や複数回の傾向で見ていきます。記録を持って診察に臨むと、変化の理由を一緒に整理しやすくなります。落ち込みが強いときは、その気持ちもあわせて相談してください。

主な出典

  • 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」(8章 糖尿病網膜症 ほか)
  • 日本腎臓学会「糖尿病性腎症病期分類2023の策定」(日本腎臓学会誌 2023;65(7))
  • 日本腎臓学会「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」

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最終更新:2026年10月14日