低血糖は、1型糖尿病のインスリン療法において最も頻度の高い副作用です。適切な知識と対策により、リスクを最小化することができます。
低血糖の数値(血糖値いくつから低血糖か)
低血糖は、血糖値が70 mg/dL未満になった状態をいいます。国際的な分類では、以下の3段階に分けられます。
| 血糖値の目安 | 分類 | 対応の目安 |
|---|---|---|
| 70 mg/dL未満 | 低血糖(Level 1) | ブドウ糖15〜20gの摂取が推奨されます |
| 54 mg/dL未満 | 重篤な低血糖(Level 2) | 速やかな糖質補給が必要です |
| 意識障害・援助を要する状態 | 重篤な低血糖(Level 3) | 経口摂取は危険なため、グルカゴン注射などの対応が必要です |
なお、血糖値70〜180 mg/dLの範囲は、CGMで評価するTIR(Time in Range)における目標範囲とされています。低血糖(70 mg/dL未満)と高血糖(180 mg/dL超)の時間を減らすことが、血糖管理の基本です。TIRの詳細は血糖コントロールとHbA1c目標値をご確認ください。
国内で用いられている数値の目安
国内の患者さん向け情報では、血糖値が70 mg/dL以下になるとからだが血糖値を上げようとして交感神経症状(冷汗・動悸など)があらわれ、50 mg/dL未満になると脳などの中枢神経がエネルギー不足の状態になって中枢神経症状があらわれるとされています。さらに血糖値が50 mg/dLを下回り、昏睡(こんすい)など意識のない危険な状態になったものを重症低血糖といいます。
低血糖は数値だけで判断するものではなく、次のいずれかにあてはまる場合が低血糖として扱われます。
- 低血糖症状があってもなくても、血糖値が70 mg/dLより低い場合
- 血糖値が70 mg/dLより高くても、低血糖症状がある場合
血糖値が急激に大きく下がったときには70 mg/dLより高くても症状があらわれることがあり、逆に低血糖を繰り返している方では70 mg/dL未満でも症状が出ないことがあります。ご自身の症状の出方については、主治医と確認しておくと安心です。
低血糖の症状
自律神経症状(警告症状)
血糖値が低下すると、交感神経が活性化し、以下の症状が現れます。
- 冷汗
- 動悸・頻脈
- 手指振戦(手が震える)
- 不安感・焦燥感
- 空腹感
- 顔面蒼白
中枢神経症状(神経糖欠乏症状)
血糖値がさらに低下すると、脳へのグルコース供給が不足し、以下の症状が現れます。
- 集中力低下
- 頭痛
- 視力障害(かすみ目)
- 言語障害
- 行動異常
- 意識障害(傾眠〜昏迷〜昏睡)
- 痙攣
低血糖の原因
- インスリン用量の過剰:食事量に対してインスリン用量が多い。
- 食事の遅延・欠食:インスリンを注射した後に食事を摂らない。
- 運動:運動によりインスリン感受性が亢進し、血糖値が低下。
- アルコール摂取:アルコールは肝臓の糖新生を抑制し、低血糖リスクを増加。
- 腎機能低下:インスリンの排泄が遅延し、作用時間が延長。
低血糖時の対応
意識がある場合
- 血糖値を測定(70 mg/dL 未満を確認)
- ブドウ糖 15〜20gを摂取(ブドウ糖タブレット3〜4錠、またはジュース150〜200mL)
- 15分後に血糖値を再測定
- 70 mg/dL 未満の場合は、ブドウ糖を繰り返す
- 70 mg/dL 以上になったら、次の食事まで炭水化物を含む間食を摂る
意識がない場合
経口での糖分投与は誤嚥のリスクがあり危険です。
- グルカゴン注射を筋肉内に投与(家族・周囲の人が実施)
- 救急車を呼ぶことをおすすめします(119番)
- 横向きに寝かせ、気道を確保する
グルカゴンキット
グルカゴンは、肝臓のグリコーゲンを分解して血糖値を上昇させるホルモンです。1型糖尿病患者には、グルカゴンキットを常備し、家族や周囲の人に使用方法を教育することが重要です。
- 投与量:成人 1mg(筋肉内注射)
- 効果発現:10〜15分
- 副作用:吐き気・嘔吐(一時的)
低血糖の予防策
- 適切なインスリン用量調整:カーボカウント(糖質早見表)により、食事量に応じたインスリン用量を計算。
- 頻回な血糖測定:CGMの活用により、低血糖を早期に検出。
- 運動前の対策:運動と1型糖尿病のページをご参照。
- アルコール摂取時の注意:食事を伴わずにアルコールを摂取しない。
- 低血糖無自覚症の管理:低血糖を繰り返す場合は、血糖目標値を見直し、数週間厳格な低血糖回避を行う。
場面別の注意と対応
低血糖は、自宅で安静にしているときよりも、運転・運動・入浴・飲酒のあとなど、判断が遅れやすい場面で問題になりやすいといえます。場面ごとに「何を確認するか」を決めておくと、対応が早くなります。補食の量やインスリン量の調整は、主治医の指示に従ってください。
| 場面 | 気をつけること | 対応の目安 |
|---|---|---|
| 運転・車での移動 | 低血糖のまま運転すると危険です。長時間の運転では血糖が下がることがあります | 運転前と長時間運転の途中に血糖を確認し、ブドウ糖を携帯する。症状があるときは運転を中止して補食する |
| 夜間・睡眠中 | 気づかないまま低血糖が続くことがあります | 就寝前の血糖を確認し、必要に応じて補食する(主治医の指示に従う)。CGMのアラーム設定も活用する(睡眠とCGM) |
| 運動の前後 | 運動中・運動後数時間は血糖が下がりやすい | 運動前の血糖確認と補食、補食の携帯。詳細は運動と1型糖尿病へ |
| 飲酒 | 空腹での飲酒は低血糖につながることがあります | 食事を伴わない飲酒を避ける。飲酒した日は就寝前の血糖確認を行う |
| 入浴・サウナ | のぼせや脱水の症状が、低血糖の症状と紛らわしいことがあります | 入浴の前後で血糖を確認する。気分が悪いときは入浴を中止する |
| 高齢・一人で過ごす時間 | 症状が出にくいことがあり、発見が遅れることがあります | 周囲への伝え方と連絡先を決めておく(家族・周囲が低血糖に気づくために/相談先の一覧) |
意識障害やけいれんなど、自分で糖質をとれない状態は重篤な低血糖です。周囲の方は、経口摂取を無理に行わず、医療機関への連絡や救急要請(119番)へのご連絡をおすすめします。日頃から、低血糖時の対応を家族や職場の人と共有しておくと安心です。
低血糖無自覚症(Hypoglycemia Unawareness)
低血糖を繰り返すと、警告症状(自律神経症状)が現れなくなり、気づかないうちに重篤な低血糖を起こすリスクが高まります。これを低血糖無自覚症と呼びます。
低血糖無自覚症が疑われる場合は、以下の対応が必要です。
- 血糖目標値を引き上げる(一時的にHbA1c 7.5〜8.0%を目標)
- 数週間厳格な低血糖回避を行う
- CGMの導入を検討
- インスリンポンプ療法への切り替えを検討
よくある質問
低血糖とはどのくらいの血糖値ですか?
血糖値70 mg/dL未満を低血糖と定義します。血糖値54 mg/dL未満は重篤な低血糖で、意識障害や痙攣を起こすリスクがあります。
低血糖の症状は何ですか?
自律神経症状(冷汗、動悸、手指振戦、不安感)と、中枢神経症状(集中力低下、頭痛、視力障害、意識障害)があります。症状は個人差があります。
低血糖になったらどうすればいいですか?
血糖値が70mg/dL未満の場合は、ブドウ糖15〜20g(ブドウ糖タブレット3〜4錠、またはジュース150〜200mL)を摂取し、15分後に再測定します。改善しない場合は繰り返します。
意識がない人に何か食べさせてもいいですか?
いいえ。意識がない人に経口で糖分を与えるのは誤嚥のリスクがあり危険です。グルカゴン注射を筋肉内に投与し、救急車を呼ぶことをおすすめします。
低血糖を繰り返すとどうなりますか?
低血糖を繰り返すと、低血糖無自覚症(Hypoglycemia Unawareness)になり、警告症状なく重篤な低血糖を起こすリスクが高まります。血糖目標値の見直しが必要です。
主な出典
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」
- 日本糖尿病学会「糖尿病治療ガイド」
- 糖尿病情報センター(国立健康危機管理研究機構)「低血糖」
関連ページ
- 1型糖尿病とは — 病態・原因・2型との違い
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- 血糖コントロールとHbA1c — 目標値・TIR
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- 食事療法・カーボカウント(糖質早見表) — インスリン計算
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- 1型糖尿病とカミングアウト — 誰に・どこまで伝えるか
- 家族・周囲が低血糖に気づくために — 見分け方と夜間の注意
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最終更新:2026年10月24日