インスリン療法とは?1型糖尿病のインスリンの種類一覧と複数回注射法



1型糖尿病の治療の柱は、インスリン療法です。1型糖尿病では、膵臓(すいぞう)のβ細胞が壊れてインスリンをほとんどつくれなくなるため、体外からインスリンを補う必要があります。

この記事では、インスリン療法の基本的な考え方、作用時間によるインスリン製剤の種類一覧、基礎インスリンと追加インスリンの役割、標準的な治療法である複数回注射法(MDI)について解説します。

インスリン療法とは

インスリンは、血液中の糖を細胞に取り込ませて血糖値を下げる、体の中で唯一のホルモンです。健康な人の膵臓は、次の2つのパターンでインスリンを分泌しています。

  • 基礎分泌:食事とは関係なく、24時間にわたって少量ずつ分泌される。空腹時の血糖値を安定させる。
  • 追加分泌:食事によって血糖値が上がったときに、すばやくまとめて分泌される。食後の血糖値の上昇を抑える。

1型糖尿病ではこの分泌が失われるため、インスリン療法では基礎分泌と追加分泌の両方を、注射で体外から補うことを目指します。健康な人の分泌パターンにどこまで近づけられるかが、血糖コントロールの鍵になります。

診断のページで触れているように、1型糖尿病ではインスリンをつくる力が残っているかをCペプチドという検査で確認します。インスリン療法が必要かどうかは、この結果や血糖値の推移、体調などをふまえて主治医が判断します。

インスリンの種類(作用時間による分類)

インスリン製剤は、注射してから効果が出るまでの時間(発現時間)と、効果が持続する時間によって分類されます。大きく分けると、食後の血糖値を抑える追加インスリンとして使うものと、空腹時の血糖値を抑える基礎インスリンとして使うものがあります。

インスリンの種類と作用時間
種類一般名(代表的な商品名)効果が出るまで作用が持続する時間注射のタイミング
超速効型インスリン アスパルト(ノボラピッド)、インスリン リスプロ(ヒューマログ)、インスリン グルリジン(アピドラ)10〜20分3〜5時間食事の直前
超速効型(より速く効くタイプ)インスリン アスパルト(フィアスプ)、インスリン リスプロ(ルムジェブ)10分未満3〜4時間食事の直前〜食事開始後20分以内
速効型生合成ヒト中性インスリン(ノボリンR)、ヒトインスリン(ヒューマリンR)30分〜1時間5〜8時間食事の約30分前
中間型生合成ヒトイソフェンインスリン(ノボリンN)、ヒトイソフェンインスリン(ヒューマリンN)30分〜3時間18〜24時間1日の決まった時間
持効型溶解インスリン デテミル(レベミル)、インスリン グラルギン(ランタス、ランタスXR)、インスリン デグルデク(トレシーバ)1〜2時間ほぼ1日1日の決まった時間
週1回持効型溶解インスリン イコデク(アウィクリ)3〜4回の注射で安定ほぼ1週間決められた曜日
混合型ノボラピッド30ミックス、ヒューマログミックス25、ヒューマリン3/7含まれる超速効型・速効型と中間型のそれぞれ同左指定された食事の前

効果が出るまでの時間や持続時間は、あくまでおおよその目安です。同じ種類でも製剤によって異なり、体調や注射する部位によっても変わります。どの製剤をどのタイミングで使うかは主治医が決めますので、注射のタイミングや量は主治医の指示に従ってください。

  • 超速効型:食後の血糖上昇を抑える追加インスリンとして、食事の直前に注射します。注射後すぐに食事をとらないと低血糖になることがあるため、食事の時間がずれそうなときは主治医に相談してください。
  • 速効型:同じく追加インスリンですが、効果が出るまでに時間がかかるため、食事の約30分前に注射します。
  • 中間型:基礎インスリンとして使います。成分が沈殿している懸濁(けんだく)製剤なので、注射前に容器をよく振って混ぜる必要があります。
  • 持効型溶解:基礎インスリンとして、1日の決まった時間に注射します。効果がほぼ1日にわたって持続します。
  • 混合型:追加インスリンと中間型インスリンがあらかじめ混ぜられた製剤です。

なお、週に1回注射する持効型溶解製剤も登場しています。製剤ごとに特徴が異なるため、使用中の製剤については主治医や薬剤師にご確認ください。

基礎インスリンと追加インスリン

インスリン療法では、体内のインスリンを役割で2つに分けて考えます。

基礎インスリンと追加インスリンの役割
役割はたらき使う製剤の例注射の回数
基礎インスリン食事と関係なく空腹時の血糖値を安定させる持効型溶解、中間型1日1〜2回
追加インスリン食事で上がる血糖値の上昇を抑える超速効型、速効型毎食前

この2つを組み合わせて、健康な人の分泌パターンに近づけていくのが基本的な考え方です。追加インスリンの量は、食事に含まれる糖質の量を把握して考えることになります。詳しくはカーボカウント(糖質早見表)のページをご参照ください。

複数回注射法(MDI:Multiple Daily Injections)

1型糖尿病の標準的な治療法です。基礎インスリンと追加(ボーラス)インスリンを組み合わせて注射し、生理的なインスリン分泌を模倣します。強化インスリン療法とも呼ばれます。

  • 基礎インスリン:持効型溶解インスリンを1日1〜2回、決まった時間に注射します。
  • 追加インスリン:超速効型インスリンを毎食前に注射し、食事による血糖上昇を抑えます。
  • 高血糖時の修正:血糖値が高いときに追加注射を行うことがあります。量は主治医が設定した値をもとに、主治医の指示に従って決めます。

注射と合わせて、血糖自己測定(SMBG)やCGM(持続血糖モニタリング)で血糖値を確認し、インスリン量の調整を行います。低血糖への対応を知っておくことも、治療を続けるうえで欠かせません。

インスリン療法の選び方

インスリンを補う方法には、注射による方法のほかに、ポンプを使って持続的に注入する方法があります。

インスリン療法の種類と特徴
方法概要特徴
複数回注射法(MDI)ペン型注入器などで1日に複数回注射する最も広く行われている標準的な方法
持続皮下インスリン注入療法(CSII)携帯型ポンプで持続的に注入し、食事ごとに追加注入する基礎インスリン量を細かく調整できる

どちらが適しているかは、血糖値の動き、低血糖の起こりやすさ、生活スタイルなどをふまえて主治医と相談して決めます。ポンプ療法の詳細はインスリンポンプ(CSII・SAP・AID)のページをご参照ください。

インスリン注射の実際

注射に適した部位は、お腹、上腕の外側、おしり、太ももなどです。薬が効いてくるまでの時間は部位によって異なり、吸収の速さはお腹 → 上腕 → おしり → 太ももの順とされています。

同じ場所ばかりに注射を続けると、皮下脂肪が変化してしこりができることがあります(リポディストロフィー)。しこりができた部分では薬が吸収されにくくなるため、同じ部位の中でも毎回少しずつ注射する場所をずらすことが大切です。

注射の手順、針の扱い、使用後の針の捨て方など、実際の方法についてはインスリン注射の打ち方のページで詳しく解説しています。

インスリンの保管

  • 未開封の製剤:冷蔵庫の凍らない場所(ドアポケットなど)で保管します。
  • 使用中の製剤:直射日光を避けた涼しい室温で保管します。

高温になる場所や凍結は、インスリンの作用を損なうおそれがあるため避けてください。車内など高温になる場所に置いたままにすることはおすすめできません。保管方法や使用期限の詳細は、添付文書や主治医、薬剤師の説明に従ってください。

インスリン療法の目標

インスリン療法の目標は、生理的なインスリン分泌にできるだけ近づけ、血糖値を良い状態に保つことです。目標値は年齢や低血糖のリスクなどによって個別に設定されます。

  • HbA1c:おおむね7.0%未満(個別に設定)
  • 空腹時血糖:80〜130 mg/dL
  • 食後2時間血糖:180 mg/dL未満
  • Time in Range(TIR):70〜180 mg/dLの範囲にいる時間の割合
  • 低血糖を避けること

目標値やTIRの考え方の詳細は血糖コントロールとHbA1cのページをご参照ください。

インスリン療法と低血糖

インスリン療法では、低血糖が起こることがあります。食事の量や時間が普段と違ったとき、運動したとき、体調を崩したときなどに起こりやすくなります。冷汗、動悸、手指のふるえ、強い空腹感などの症状があらわれます。

低血糖に備えて、ブドウ糖や糖質を含む飲み物を携帯しておきましょう。症状と対処法の詳細は低血糖の症状と対処のページをご参照ください。

自己判断でインスリンを中断しないこと

1型糖尿病ではインスリンを補うことが治療の前提となるため、自己判断でインスリンを中断することはおすすめしません。インスリンが不足すると高血糖が続き、ケトアシドーシスという急性の合併症を起こすおそれがあります。

ケトアシドーシスでは、強い倦怠感、吐き気、腹痛、口の渇き、呼吸の変化(深く速い呼吸)、呼気の甘いにおいなどの症状があらわれることがあります。このような症状があるときは、早めに医療機関へご連絡をおすすめします。

  • 食事がとれないとき、発熱や下痢・嘔吐があるときなども、自己判断でインスリンを中止せず、主治医にご相談ください。
  • 体調が悪いときの対応(シックデイ)については、あらかじめ主治医と決めておくと安心です。
  • 血糖値が高い状態が続くときは、注射セットの閉塞や脱落がないかも確認してください。

よくある質問

インスリン療法とは何ですか?

インスリン療法とは、膵臓からのインスリン分泌が不足している方に、インスリンを注射で体外から補う治療です。1型糖尿病ではインスリン分泌がほとんどなくなるため、生涯にわたってインスリン補充が必要となります。健康な人のインスリン分泌に近づけるよう、基礎分泌と追加分泌を組み合わせて補充します。

インスリンにはどんな種類がありますか?

効果が出るまでの時間と持続時間によって、超速効型・速効型・中間型・持効型溶解・混合型などに分けられます。超速効型は食事の直前に、速効型は食事の約30分前に注射し、食後の血糖上昇を抑えます。持効型溶解と中間型は1日の決まった時間に注射し、空腹時の血糖値を抑える基礎インスリンとして働きます。製剤の選択は主治医が行います。

基礎インスリンと追加インスリンの違いは何ですか?

基礎インスリンは、食事と関係なく24時間にわたって少量ずつ分泌されるインスリンを補うもので、空腹時の血糖値を安定させます。持効型溶解インスリンや中間型インスリンを1日の決まった時間に注射します。追加インスリンは、食事によって上がる血糖値を抑えるために食事の前に注射するもので、超速効型や速効型を用います。

1型糖尿病ではなぜインスリン注射が必要なのですか?

1型糖尿病では、膵臓のβ細胞が壊れてインスリンをほとんどつくれなくなります。インスリンは血糖値を下げる唯一のホルモンであるため、体外から注射で補わないと高血糖が続きます。インスリン補充は1型糖尿病の治療の柱であり、自己判断で中断するとケトアシドーシスを起こすおそれがあります。

インスリン注射は痛いですか?

インスリン注射に使う針はとても細く短いため、痛みは比較的少ないとされています。注射部位を毎回少しずつずらすことで、皮下脂肪の硬化や萎縮を防ぐことができます。痛みが強い場合や、しこりができた場合は、主治医や担当の看護師にご相談ください。

インスリンの保管方法はどうすればいいですか?

未開封のインスリン製剤は、冷蔵庫の凍らない場所で保管します。使用中の製剤は、直射日光を避けた涼しい室温で保管します。高温になる場所や凍結はインスリンの作用を損なうため避けてください。保管方法や使用期限の詳細は、添付文書や主治医、薬剤師の説明に従ってください。

インスリン療法で低血糖は起こりますか?

インスリン療法では低血糖が起こることがあります。とくに食事の量や時間が普段と違ったとき、運動したとき、体調を崩したときに起こりやすくなります。低血糖の症状と対処法をあらかじめ知っておき、ブドウ糖などを携帯しておくことが大切です。

自分でインスリンをやめてしまってもよいですか?

自己判断でインスリンを中断することはおすすめしません。1型糖尿病ではインスリンが不足すると高血糖が続き、吐き気や腹痛、呼吸の変化などを伴うケトアシドーシスを起こすおそれがあります。食事がとれないときや体調が悪いときも、自己判断せずに主治医にご相談ください。

主な出典

  • 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」
  • 日本糖尿病協会「インスリン自己注射ガイド」
  • 米国糖尿病学会(ADA)Standards of Care in Diabetes—2024 Section 9:Pharmacologic Approaches to Glycemic Treatment

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最終更新:2026年9月20日