1型糖尿病は、膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞が何らかの原因で破壊され、インスリンが絶対的に不足する疾患です。インスリンは血糖値を下げる唯一のホルモンであり、その産生がほぼ完全に失われるため、生涯にわたるインスリン補充療法が必須となります。
この記事の要点
- 1型糖尿病は、膵臓のβ細胞が自己免疫などの機序で破壊され、インスリンが絶対的に不足する疾患です。
- 2型糖尿病とは原因・病態・治療法が異なり、インスリン補充療法が生涯にわたって必要になります。
- 生活習慣だけで発症する病気ではなく、遺伝的な素因に環境要因が加わって発症すると考えられています。
- 日本では約10万人と推定され、糖尿病患者全体の約5%を占めます。
- 治療の目標は、血糖コントロールを保ちながら合併症を予防し、日常生活の質を保つことです。
1型糖尿病とは
1型糖尿病は、膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞が自己免疫などの機序で破壊され、インスリンが絶対的に不足する糖尿病です。生活習慣が主因となる2型糖尿病とは異なり、発症するとインスリン補充療法が生涯にわたって必要となります。
- 原因:自己免疫によるβ細胞の破壊が中心(後述の「1型糖尿病の原因」を参照)
- 発症年齢:小児〜思春期に多いが、成人以降の発症(LADA)もある
- 症状:のどの渇き、尿の回数の増加、体重減少などが比較的急激に現れる
- 治療:インスリン注射(複数回注射法またはポンプ療法)が基本
- 患者数:日本では約10万人と推定され、糖尿病患者全体の約5%を占める
1型糖尿病の病態
膵臓のβ細胞は、食後に上昇した血糖値に応じてインスリンを分泌し、全身の細胞がグルコースを取り込むのを助けます。1型糖尿病では、このβ細胞が自己免疫機序などによって破壊されるため、インスリンを産生できなくなります。
結果として、血糖値が上昇し続けるだけでなく、細胞はエネルギー源であるグルコースを利用できず、脂肪や筋肉を分解してエネルギーをおうとします。この状態が進行すると、ケトアシドーシスと呼ばれる重篤な代謝異常を引き起こします。
1型糖尿病の原因
1型糖尿病の発症には、以下の要因が複雑に関与していると考えられています。
自己免疫機序
最も一般的なタイプ(1A型)では、免疫系が誤って自身のβ細胞を攻撃・破壊します。血液中に以下の自己抗体が検出されることがあります。
- 抗GAD抗体(グルタミン酸デカルボキシラーゼ抗体)
- 抗IA-2抗体
- 抗インスリン抗体(IAA)
- 抗ZnT8抗体
遺伝的要因
HLA(ヒト白血球抗原)遺伝子、特にHLA-DR3/DR4との関連が知られています。ただし、遺伝的素因があるからといって必ず発症するわけではなく、環境要因との相互作用が重要です。
生まれつき(先天性)なのか
1型糖尿病は「生まれつき発症が決まっている病気」ではありません。遺伝的な体質(素因)は発症しやすさに関与しますが、遺伝子だけで発症が確定するわけではなく、ウイルス感染などの環境要因が加わって発症すると考えられています。
環境要因
ウイルス感染(エンテロウイルス、サイトメガロウイルスなど)、食事要因、ビタミンD不足などが発症の引き金になる可能性が指摘されていますが、完全には解明されていません。
特発性1型糖尿病(1B型)
自己抗体が検出されず、原因不明のβ細胞破壊が起こるタイプです。アジア・アフリカ系に多いとされています。
1型糖尿病と2型糖尿病の違い・見分け方
1型と2型は「糖尿病」という名称は同じですが、原因・病態・治療法が根本的に異なる疾患です。
| 項目 | 1型糖尿病 | 2型糖尿病 |
|---|---|---|
| 原因 | β細胞の破壊(自己免疫など) | インスリン抵抗性+相対的インスリン不足 |
| インスリン産生 | ほぼ完全に消失 | 残存している(程度は様々) |
| 発症年齢 | 小児・若年者に多い(全年齢で発症) | 中高年に多い(若年化も進行) |
| 発症速度 | 急激(数日〜数週間) | 緩徐(数年〜数十年) |
| 体型 | 痩せていることが多い | 肥満を伴うことが多い |
| 治療の柱 | インスリン療法(必須) | 生活習慣改善+経口薬±インスリン |
| ケトアシドーシス | 発症時・インスリン中止時に高リスク | 比較的稀 |
| 予防 | 現時点で予防法なし | 生活習慣改善で予防可能 |
1型と2型の見分け方
1型と2型は、血液検査の結果と臨床経過を組み合わせて区別します。主な見分け方は以下のとおりです。
- 自己抗体:抗GAD抗体などの自己抗体が陽性であれば、1型糖尿病が強く示唆されます
- Cペプチド値:インスリン産生能の指標です。1型では低値〜検出限界以下となります
- 経過:数日〜数週間で急激に進行し、ケトアシドーシスを伴う場合は1型が疑われます
- 体型・年齢:痩せ型・若年発症は1型に多いものの、これだけで判断することはできません
検査の詳細は1型糖尿病の診断・検査、急激な悪化については糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)をご確認ください。
1型糖尿病の分類
発症速度による分類
- 急性発症型:数日〜数週間でケトアシドーシスを伴って発症。小児に多い。
- 緩徐進行型(SPIDDM/LADA):数ヶ月〜数年かけて徐々にβ細胞機能が低下。成人に多い。初期は経口薬が有効なこともあるが、最終的にインスリンが必要になる。
- 劇症1型糖尿病:数日以内に急激に発症。ケトアシドーシスを伴い、発症時のHbA1cがほぼ正常なのが特徴。日本に多い亜型。
1型糖尿病の疫学
- 日本の1型糖尿病患者数は約10万人と推定
- 糖尿病患者全体の約5%を占める
- 年間新規発症率は人口10万人あたり1.5〜2.5人
- 小児(0〜14歳)の発症率は北欧諸国が最も高く、日本は比較的低い
- 発症のピークは小児期と思春期にあるが、成人以降の発症も少なくない
1型糖尿病の症状
代表的な初期症状は以下の通りです。詳細は1型糖尿病の症状のページをご確認ください。
- 多飲:のどが渇き、大量の水分を摂取する
- 多尿:尿の回数・量が増える
- 体重減少:食欲があるにもかかわらず体重が減る
- 全身倦怠感・疲労感
- 視力低下:高血糖による水晶体の膨潤
これらの症状が数日〜数週間で急激に現れる場合は、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)に進行するリスクがあるため、速やかな受診が必要です。
1型糖尿病の診断
診断には血糖値・HbA1cの測定に加え、自己抗体の検出やCペプチド値(インスリン産生能の評価)が重要です。詳細は診断・検査のページをご確認ください。
1型糖尿病の治療
1型糖尿病の治療の柱はインスリン補充療法です。経口血糖降下薬のみで治療できる2型糖尿病とは異なり、1型糖尿病ではインスリンが必須です。
- インスリン療法(基礎):複数回注射法(MDI)の基本
- インスリンポンプ療法:CSII(持続皮下インスリン注入)
- CGM:持続血糖モニタリングによる血糖管理の最適化
1型糖尿病の治療の目標
1型糖尿病の治療では、血糖値をできるだけ安定した状態に保ち、合併症を予防しながら、日常生活の質を保つことが目標になります。目標の達成度を評価する指標としては、HbA1c、TIR(Time in Range)、血糖変動の3つが用いられます。
目標の値は、年齢や低血糖の起こりやすさ、生活状況などによって一人ひとり異なります。考え方と目安については血糖コントロールとHbA1cで解説しています。
1型糖尿病と日常生活
1型糖尿病は、インスリン補充療法を続けながら、学校や仕事、家庭生活を送ることができる疾患です。治療の工夫によって、日常生活の制限をできるだけ少なくすることが治療の目標のひとつになります。
- 食事:食事に含まれる糖質の量を把握し、インスリン療法に活かす考え方(カーボカウント)が用いられます。食事の量や時間が普段と変わるときの対応は、あらかじめ主治医と相談しておくことが大切です。食事療法・カーボカウント
- 運動:運動はインスリン感受性を高め、血糖コントロールに役立つとされています。一方で、運動中や運動後に低血糖が起こることがあるため、運動前後の血糖測定や補食の準備については主治医の指示に従ってください。運動と1型糖尿病
- インスリン注射:注射部位を交代しながら、決められた方法で行います。手技や保管方法はインスリン注射の方法で解説しています。
- 学校・職場:低血糖時の対応やインスリン注射のタイミングについて、あらかじめ周囲の理解と協力を得ておくことが安心につながります。
- 旅行・災害:予備のインスリン製剤や注射器、補食を準備し、保管方法にも注意が必要です。1型糖尿病と日常生活の工夫で詳しく解説しています。
- 運転:低血糖の症状があるときは運転を控えてください。低血糖を起こしやすい状況では、事前の血糖測定と補食を行い、運転に関する判断は主治医の指示に従ってください。
1型糖尿病と妊娠・出産
1型糖尿病の方が妊娠を希望する場合は、妊娠前から血糖コントロールを整えておくことが大切とされています。妊娠中は母体と胎児の状態に合わせて目標値が個別に設定され、産科と連携しながら管理が行われます。出産後もインスリンの必要量が変化するため、主治医の指示に従って調整します。
妊娠前・妊娠中・産後の管理の考え方は1型糖尿病と妊娠、目標値の目安は血糖コントロールとHbA1cで解説しています。
低血糖とケトアシドーシスへの備え
1型糖尿病では、血糖値が急に変動する状態に備えておくことが重要です。とくに次の2つは、早めの対応が必要になります。
- 低血糖:インスリン療法では低血糖が起こることがあります。冷汗、動悸、手指のふるえ、強い空腹感などの症状があらわれたときは、ブドウ糖などを摂取してください。症状や対応、ブドウ糖の携帯については低血糖の対策で解説しています。
- 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA):インスリンが不足すると高血糖が続き、ケトアシドーシスを起こすおそれがあります。吐き気・嘔吐・腹痛・深く速い呼吸などの症状があるときは、早めに医療機関へご連絡をおすすめします。原因と予防は糖尿病性ケトアシドーシスで解説しています。
発熱・嘔吐・下痢などで食事がとれないときも、自己判断でインスリンを中止せず、あらかじめ主治医と決めておいた対応に従ってください。詳しくはシックデイルールをご確認ください。
合併症の予防
1型糖尿病では、高血糖が長期間続くことによって、網膜症・腎症・神経障害などの細小血管の合併症や、動脈硬化性疾患などの大血管の合併症が起こることがあります。血糖コントロールを保つことに加え、血圧や脂質の管理、禁煙、定期的な眼科受診や尿検査が大切とされています。
合併症の種類と予防については合併症で解説しています。
よくある質問
1型糖尿病と2型糖尿病の根本的な違いは何ですか?
1型糖尿病は膵臓のβ細胞が破壊されインスリンが絶対的に不足する状態です。2型糖尿病はインスリン抵抗性や相対的なインスリン不足が主因です。原因・発症機序・治療法が根本的に異なります。
1型糖尿病は子どもだけがかかる病気ですか?
いいえ。1型糖尿病は小児・若年者に多いですが、成人以降に発症するケース(LADA:成人発症緩徐進行1型糖尿病)も少なくありません。全年齢で発症する可能性があります。
1型糖尿病は遺伝しますか?
遺伝的要因(HLA遺伝子など)は関与しますが、1型糖尿病は単一遺伝子疾患ではありません。遺伝的素因に環境要因(ウイルス感染など)が加わって発症すると考えられています。
1型糖尿病の患者数はどのくらいですか?
日本の1型糖尿病患者数は約10万人と推定されています。糖尿病患者全体の約5%を占め、2型糖尿病に比べて稀な疾患です。
1型糖尿病は治りますか?
現時点では1型糖尿病を根本的に治す治療法は確立されていません。インスリン補充療法により血糖をコントロールしながら、合併症を予防し、健康な生活を送ることが治療の目標です。
1型糖尿病の治療は生涯続ける必要がありますか?
1型糖尿病では、膵臓のβ細胞が破壊されてインスリンがほとんど作られなくなるため、インスリン補充療法を続ける必要があります。治療の内容(注射の回数やポンプ療法の使用など)は、生活状況や血糖の動きに合わせて主治医と相談しながら見直していきます。
1型糖尿病でも運動してよいですか?
運動は血糖コントロールに役立つとされていますが、運動中や運動後に低血糖が起こることがあります。血糖の動き方は運動の種類や強さ、時間帯によって異なるため、運動前後の血糖測定や補食の準備について、あらかじめ主治医と相談しておくことをおすすめします。
1型糖尿病で気をつけるべき急性の状態は何ですか?
低血糖と糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)です。低血糖では冷汗・動悸・手指のふるえなどがみられ、ブドウ糖の摂取などの対応が必要になります。ケトアシドーシスはインスリン不足によって起こり、吐き気・嘔吐・腹痛・深く速い呼吸などがみられます。いずれも症状があるときは、早めに医療機関へご連絡をおすすめします。
主な出典
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」
- 日本糖尿病学会「糖尿病治療ガイド」
- 糖尿病情報センター(国立健康危機管理研究機構)
関連ページ
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