1型糖尿病と運動|血糖変動・対策・安全な運動法

1型糖尿病患者にとって、運動は心血管リスクの低減、インスリン感受性の改善、QOLの向上など、多くのメリットがあります。ただし、運動は血糖値に複雑な影響を与えるため、適切な準備と管理が必要です。

運動が血糖値に与える影響

有酸素運動(ウォーキング、水泳、サイクリングなど)

有酸素運動は、筋肉がグルコースを取り込む量を増加させ、血糖値を低下させる傾向があります。運動強度・時間・インスリン濃度によって、低血糖リスクが高まります。

無酸素運動・高強度運動(短距離走、筋力トレーニングなど)

高強度運動は、アドレナリンやグルカゴンの分泌を促進し、血糖値を上昇させることがあります。運動後に血糖値が低下することもあります。

運動前の準備

血糖値の確認

運動前の血糖値と対応の目安
運動前血糖値 対応
100 mg/dL未満 糖質15〜30gを補給し、血糖値が100 mg/dL以上になってから運動開始
100〜250 mg/dL 運動開始可能
250 mg/dL超 ケトン体を測定。ケトン体陽性の場合は運動を控える。陰性の場合は軽度の運動から開始

インスリン用量の調整

  • 運動前の追加インスリン用量を25〜50%削減する
  • 基礎インスリン用量を調整する(ポンプ療法の場合)
  • 運動直前の注射部位は、運動で血流が増加する部位(大腿部など)を避ける

糖質の補給

  • 30分未満の運動:糖質補給は不要な場合が多い
  • 30〜60分の運動:糖質15〜30gを補給
  • 60分以上の運動:糖質30〜60gを補給(運動中も定期的に補給)

運動中の血糖モニタリング

  • 30分以上の運動の場合は、30分ごとに血糖値を測定
  • CGMを使用する場合は、リアルタイムで血糖値をモニタリング
  • 血糖値が70 mg/dL未満になった場合は、運動を中止して糖質を補給

運動後の管理

遅発性低血糖

運動後、筋肉がグルコースを取り込んでグリコーゲンを補充するため、運動後数時間〜24時間後に低血糖が起こることがあります。これを遅発性低血糖と呼びます。

対策:

  • 運動後に血糖値を測定し、必要に応じて間食を摂る
  • 就寝前に血糖値を確認し、必要に応じて間食を摂る
  • 運動日の夜間の基礎インスリン用量を削減する(ポンプ療法の場合)

推奨される運動

  • 有酸素運動:週に150分以上の中強度運動(ウォーキング、水泳、サイクリングなど)
  • 筋力トレーニング:週2〜3回(主要筋群を対象)
  • 柔軟性トレーニング:週2〜3回

競技スポーツへの参加

1型糖尿病患者でも、適切な管理のもとで競技スポーツに参加可能です。実際、オリンピック選手やプロスポーツ選手にも1型糖尿病患者がいます。

  • 競技前に十分な準備(血糖値確認、インスリン調整、糖質補給)を行う
  • コーチやチームメイトに1型糖尿病であることを伝え、低血糖時の対応を教育する
  • 競技中に糖質を補給できるように準備する

低血糖が怖いときの運動の始め方

運動が体によいと分かっていても、低血糖がこわくて一歩を踏み出せない、という声は少なくありません。こわさは、正体がはっきりしないままだと大きくなりがちです。ここでは、こわさの種類を切り分け、備えと伝え方を整理します。

怖さの正体を切り分ける

「運動がこわい」とひとくくりにせず、どこが引っかかっているのかを分けてみると、備え方を決めやすくなります。

  • 前回の低血糖の記憶:冷や汗・手のふるえ・動悸などを経験した場面が、運動そのものと結びついていることがあります。
  • 夜間の低血糖が心配:運動した日の夜に値が下がるのではないかという不安です。
  • ひとりでの運動が不安:低血糖になったときに誰も気づいてくれない状況で動くことへの不安です。
  • 補食やインスリン調整のタイミングが読みにくい:どのくらい補食すればよいか、どこまで調整してよいかを自分で決めることに迷いがある状態です。
  • 周囲に伝えていない:低血糖のときに助けを求められるか分からないという不安です。
  • 体調や生活の変化:睡眠不足・疲労・食事の変化などで、いつもと同じ強度が同じ影響にならないことへの不安です。

どの不安が強いかを診察で伝えると、調整の相談が具体的になります。

運動前の確認と持ち物

  • 運動前の血糖値の確認(目安は上の表のとおりです)。高値が続くときはケトン体も確認します。
  • ブドウ糖や補食を持参する(量や種類は主治医・管理栄養士と相談して決めておきます)
  • グルカゴン製剤を処方されている場合は、携帯と使い方の確認
  • CGMのアラーム設定(低血糖の予測アラームを含む)と、装着・充電の状態の確認
  • 身元を示すもの(ID・医療情報カード・連絡先)の持参
  • はじめての種目や久しぶりの運動は、短時間・低めの強度から始める
  • 可能であれば、最初は誰かと一緒に、または連絡が取れる状況で行う

低血糖への対処の基本は低血糖の症状と対処、アラームの使い方はCGM(持続グルコースモニタリング)でまとめています。

運動した日の夜に備える

運動の影響は、運動が終わってから数時間〜翌日まで続くことがあります。夜間の備えとして、次の点を確認しておくと安心です。

  • 就寝前に血糖値を確認する
  • CGMのアラームを夜間も鳴る設定にし、装着状態を確認する
  • ブドウ糖や補食を、寝ている場所から手の届くところに置く
  • 家族や同居する人に、低血糖のサインと起こし方を共有しておく
  • 運動した日と強度・時間を記録し、翌朝の値とあわせて見る
  • 翌朝まで下がりやすい傾向があれば、基礎インスリンや補食の調整を主治医に相談する

部活・スポーツでの伝え方

どこまで伝えるかは、自分で決めてかまいません。一方で、低血糖のときに助けてもらうために必要な情報は、あらかじめ共有しておくと安心です。

  • 共有する相手と範囲は自分で決める(顧問・コーチ・チームメイト・養護の先生など)
  • 伝えておくと役立つ内容:低血糖のサイン、ブドウ糖の置き場所、声をかけてほしいタイミング、いざというときの連絡先
  • 休憩や補食のタイミングは、練習や試合の前後にどれくらい時間が取れるかを確認して相談する
  • 合宿・遠征・試合の日は、補食と予備の器具を多めに用意する
  • 学校生活全体の伝え方は、担任・養護教諭と相談しながら決める

伝える範囲や言い方については1型糖尿病とカミングアウト、困ったときの相談先は相談先の一覧でまとめています。

よくある質問

1型糖尿病でも運動できますか?

はい、適切な血糖管理のもとで運動は可能です。運動はインスリン感受性を改善し、心血管リスクを低減します。ただし、運動前の血糖値確認、インスリン用量調整、糖質補給など、注意点があります。

運動前に血糖値がどのくらいなら運動してもいいですか?

運動前の血糖値が100〜250 mg/dLの範囲であれば、運動を開始しても安全です。100 mg/dL未満の場合は糖質を補給し、250 mg/dL超の場合はケトン体を測定して運動を控える判断をします。

運動中はどのくらいの頻度で血糖値を測定すべきですか?

30分以上の運動の場合は、運動前・運動中(30分ごと)・運動後に血糖値を測定します。CGMを使用する場合は、リアルタイムで血糖値をモニタリングできます。

運動後に低血糖になるのはなぜですか?

運動後、筋肉がグルコースを取り込んでグリコーゲンを補充するため、運動後数時間〜24時間後に低血糖が起こることがあります(遅発性低血糖)。運動後の血糖モニタリングと適切な間食が重要です。

どんな運動が1型糖尿病に適していますか?

有酸素運動(ウォーキング、水泳、サイクリング)と筋力トレーニングの組み合わせが推奨されます。週に150分以上の中強度有酸素運動と、週2〜3回の筋力トレーニングが目標です。

運動が怖いと感じるとき、何から始めればよいですか?

まず、こわさの内容を分けてみるのが助けになります。前回の低血糖の記憶、夜間の低血糖、ひとりでの運動、補食のタイミング、周囲に知られていないことなど、引っかかっている点によって備え方は変わります。短時間・低めの強度から始めて血糖値の変化を記録し、その記録を持って主治医に相談すると調整しやすくなります。ブドウ糖・身元を示すもの・連絡先をそろえておくことも安心につながります。

運動した日の夜、低血糖にならないか心配です。どう備えればよいですか?

運動の影響は、終わってから数時間〜翌日まで続くことがあるため、就寝前の血糖値の確認、CGMのアラームの設定、ブドウ糖を手の届く場所に置くこと、家族と低血糖のサインを共有しておくことが役立ちます。運動した日と強度・時間を記録しておくと、翌朝の値とあわせて傾向が見え、基礎インスリンや補食の調整を主治医に相談しやすくなります。

部活やスポーツで、周りの人にどこまで伝えればよいですか?

伝える範囲は自分で決めてかまいません。低血糖のサイン、ブドウ糖の置き場所、声をかけてほしいタイミング、いざというときの連絡先は、共有しておくと助けてもらいやすくなります。顧問やコーチ、養護の先生と相談するときは、休憩や補食のタイミングについても確認しておくと、練習や試合の流れの中で対応しやすくなります。

主な出典

  • 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」
  • 米国糖尿病学会(ADA)Standards of Care in Diabetes—2024 Section 5: Facilitating Positive Health Behaviors and Well-being to Improve Health Outcomes(Diabetes Care 2024;47(Suppl. 1):S77–S110)
  • 小児・思春期糖尿病コンセンサス・ガイドライン2024

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最終更新:2026年10月14日