糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)とは?症状・治療・予防法【1型糖尿病】



糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)とは

糖尿病性ケトアシドーシス(Diabetic Ketoacidosis, DKA)は、インスリンが著しく不足することで体内の糖利用ができなくなり、代わりに脂肪が分解されてケトン体が過剰に産生される状態です。血液が酸性に傾き、迅速な対応が必要となる病態です。

特に1型糖尿病の方に発症リスクが高いとされていますが、インスリン治療中の2型糖尿病でも起こり得ます。適切な予防と早期の発見・対応が重要です。

主な症状

DKAは以下のような症状が特徴的です。複数当てはまる場合は速やかに医療機関を受診することが推奨されます。

  • 口渇・多飲・多尿 – 高血糖による典型的な症状
  • 吐き気・嘔吐・腹痛 – 消化器症状はしばしば急性腹症と誤認される
  • 疲労感・全身倦怠感 – エネルギー不足による
  • 呼吸の変化(クスマウル呼吸) – 深く速い呼吸。体内の酸性を補正しようとする反応
  • 呼気のアセトン臭 – 甘酸っぱい果実のような匂い
  • 意識障害・昏睡 – 重症例では意識レベルが低下します

診断基準

DKAの診断は、以下の所見を組み合わせて行われます。

糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)の診断基準
項目基準値
血糖値250 mg/dL超
血液ガスpH7.30以下(アシドーシス)
血清HCO3−(重炭酸)18 mEq/L以下
ケトン体血中ケトン体(β-ヒドロキシ酪酸)の増加 または 尿ケトン陽性

出典:日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」第20章

3つの所見(高血糖・ケトーシス・アシドーシス)がそろった状態をDKAと呼びます。血糖値が250 mg/dL以下でも、SGLT2阻害薬の使用中や妊娠中などにはケトアシドーシスが起こることがあり、「正常血糖ケトアシドーシス」と呼ばれます(血糖値が高くないケトアシドーシスで解説しています)。

診断は、症状や経過の確認に加えて、採血・採尿・血液ガス検査の結果を合わせて行われます。

重症度分類

ケトアシドーシスの重症度は、血糖値の高さではなく、血液ガスpHと意識障害の程度によって判断されます。一般に、次の3段階に分類されます。

糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)の重症度分類
重症度 血液ガスpH 血清HCO3- 意識レベル
軽症 7.25〜7.30 15〜18 mEq/L 清明
中等症 7.00〜7.25未満 10〜15 mEq/L 清明〜傾眠
重症 7.00未満 10 mEq/L未満 混迷・昏睡

※重症度の区分は、米国糖尿病学会(ADA)の基準に基づくものです。

重症度にかかわらず入院での治療が必要です。意識障害や呼吸の異常がある場合は、速やかに救急医療機関へご連絡をおすすめします。

原因と誘因

DKAの主な誘因として以下が挙げられます:

  • インスリン不足 – インスリン注射の中断・忘れ・インスリンポンプのトラブル
  • 感染症 – 風邪・インフルエンザ・肺炎・尿路感染症など
  • ストレス – 手術・外傷・心筋梗塞などの身体的ストレス
  • 初発の1型糖尿病 – 診断前の段階ですでにDKAで発見されることがある
  • 薬剤 – SGLT2阻害薬の使用(極めて稀だが注意が必要)

ケトアシドーシスは1型糖尿病に多い病態ですが、2型糖尿病の方でも起こることがあります。感染症や、糖質の多い清涼飲料水を継続的に多く摂取する習慣(ソフトドリンクケトーシス)などを契機に発症することがあり、ケトアシドーシスの患者さんのうち約20〜30%が2型糖尿病であったという報告もあります。

血糖値が高くないケトアシドーシス(正常血糖ケトアシドーシス)

血糖値が250 mg/dL以下(または200 mg/dL以下)でもケトアシドーシスが起こることがあり、「正常血糖ケトアシドーシス」と呼ばれます。SGLT2阻害薬を服用している方や妊娠中の方では、血糖値が著しく高くならないままケトアシドーシスが進行することがあると報告されています。

飢餓状態、糖質を極端に減らした食事、感染症、慢性的なアルコール摂取、肝疾患なども背景因子になります。血糖値だけでは判断できないため、体調不良のときは血糖値とあわせてケトン体も確認することが大切です。

治療

DKAは入院での治療が必要な病態です。自宅での対応では改善が難しく、速やかに救急医療機関を受診することが推奨されます。治療は、原因であるインスリン不足を補いつつ、失われた水分と電解質を戻すことが中心になります。

糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)の治療の柱
治療内容
輸液生理食塩水を中心にした点滴で、水分とナトリウムなどの電解質を補います。脱水の程度に応じて、量と速度が調整されます。
インスリン速効型インスリンを少量ずつ持続的に静脈注射します。血糖値の低下に合わせてブドウ糖液を併用し、低血糖を防ぎます。
電解質(特にカリウム)インスリンで血糖値が下がると血清カリウムも低下するため、値を測定しながら補充します。4.0〜5.0 mEq/Lを目安に維持します。
誘因の治療感染症やインスリン注射の中断など、引き金になった原因の治療を並行して行います。

アシドーシスそのものを重炭酸(HCO3−)の投与で補正することは、原則として行いません。アシドーシスは、インスリンによって原因を取り除くことで改善します。

小児・思春期では、治療開始時にインスリンを一度にまとめて静脈注射すること(ボーラス投与)は脳浮腫のリスクがあるため推奨されていません。脱水の補正も成人よりゆっくり行うなど、慎重な管理が必要とされています。

治療中は、血糖値・血清カリウム・ケトン体・血液ガスなどを定期的に測定し、状態に合わせて点滴の内容やインスリンの量を調整します。ケトン体が陰性化し、アシドーシスが改善して食事がとれるようになると、インスリンは皮下注射に切り替えられ、退院に向けた調整が進みます。

治療はすべて医療機関で行うもので、自宅で同じ対応をすることはできません。高血糖が続く、ケトン体が陽性、嘔吐が続くといったときは、自己判断でインスリンを増やしたり中断したりせず、医療機関にご連絡ください。体調不良時の対応はシックデイルールもご参照ください。

予防:シックデイルールとの関係

DKAの予防において最も重要なのは、発熱・嘔吐・下痢などの体調不良時の対応ルール(シックデイルール)をあらかじめ理解しておくことです。具体的には:

  • 体調不良時でもインスリンを決して自己中断しない
  • 血糖値とケトン体(血中または尿中)を頻回に測定する
  • 水分を十分に摂取する
  • 嘔吐が続く・ケトン体が上昇する場合は速やかに医療機関を受診する

繰り返さないために:再発のきっかけを振り返る

ケトアシドーシスを一度経験すると、「また起こるのではないか」という不安が残りやすいものです。再発を防ぐ手がかりは、多くの場合、前回の発症の直前までさかのぼると見つかります。ここでは、繰り返しにつながりやすい場面を整理し、振り返り方と診察で確認しておきたいことをまとめます。

再発しやすい場面を振り返る

次のような場面が、再発のきっかけとして挙げられます。すべてが当てはまる必要はありません。前回の発症に近いものを1つ選び、そこから考えてみてください。

ケトアシドーシスの再発に関わる主な場面
場面何が起こっているか振り返りのポイント
インスリン注射の中断・打ち忘れインスリンが不足し、脂肪の分解が進んでケトン体が増えます。中断した期間と、そのときの事情(仕事・旅行・気分の落ち込みなど)
体調不良への対応の遅れ発熱・嘔吐・下痢のときにインスリンを減らす、あるいは中断してしまうと、急激に悪化することがあります。シックデイルールの内容を確認できていたか、連絡先が手元にあったか
インスリンポンプのトラブルカニューレの閉塞・脱離や注入セットの不具合で、インスリンが入らない状態が続くことがあります。アラームを見落としていなかったか、予備の注入セットやペンがあったか
感染症・発熱感染に伴うストレスホルモンの影響で、インスリンが必要量が増えることがあります。発熱や炎症の症状に気づくのが遅れなかったか
飲酒・食事の大きな変化嘔吐や脱水を伴うと、ケトアシドーシスにつながることがあります。飲酒の量と翌日の体調、水分がとれていたか
SGLT2阻害薬の使用中血糖値が著しく高くない状態でもケトアシドーシスが起こることがあります。体調不良時の休薬の指示を確認していたか
通院・治療から離れていた時期注射や受診の間隔が開くと、血糖値の管理が乱れやすくなります。通院が途切れた理由(時間・費用・気持ち)をそのまま伝えられるか

記録しておくと振り返りやすいこと

再発のきっかけは、記録があると見つけやすくなります。すべてを細かく残す必要はなく、次の点を押さえておくと役立ちます。

  • 発症した日と、症状が出始めた時刻・受診した時刻
  • 直前の数日間に測った血糖値とケトン体(測っていれば)
  • インスリンの注射状況(回数、中断・打ち忘れの有無、ポンプ使用時はアラームやカニューレ交換の記録)
  • 嘔吐・腹痛・発熱・下痢の有無と、水分がとれていたか
  • きっかけと思われる出来事(体調不良、飲酒、食事や生活の変化、気持ちの落ち込みなど)
  • 受診時の検査値(血糖・pH・HCO3−・カリウム)— 診療の記録に残るため、退院時に要点をメモしておくのも方法です

記録は、誰かを責めるためではなく「同じパターンを探す」ために使います。1回の出来事で決めつけず、同じきっかけが2回以上重なったときに、傾向として主治医に伝えると相談が具体的になります。記録が残っていない場合でも、思い出せる範囲でかまいません。

診察で確認しておきたいこと

次の点は、あらかじめ決めておくと再発時の判断がしやすくなります。日頃の診察のときに、1つずつ確認しておきましょう。

  • 体調不良時のインスリンの扱い(減らす・やめる判断の基準が書面などで示されているか)
  • 血糖値とケトン体を測るタイミングと、測り方(血中ケトン体か、尿ケトン体か)
  • 受診・連絡の目安(どの症状が出たら、どこに、いつ連絡するか)
  • インスリンポンプ使用時のトラブル対応と、予備の注射器・ペンの用意
  • 高血糖が続くときの補正の考え方(自分で判断してよい範囲)
  • 繰り返す背景に気持ちの負担や生活の事情があるときの相談先

インスリンの量や種類の調整は、記録をもとに主治医の指示で行います。自己判断で量を変えたり中断したりしないことが、再発を防ぐ基本です。意識がはっきりしない、呼吸が苦しい、嘔吐が繰り返されるといった状態のときは、119番へのご連絡をおすすめします。

注射の中断や打ち忘れが続くときは、その事情を伝えることから始めてください。注射の工夫はインスリン注射の基本、体調不良時の対応はシックデイルール、減量を目的とした中断が背景にあるときは1型糖尿病で体重が増えるで解説しています。周囲に伝える負担が大きいときは周囲への伝え方、つらさが続くときは1型糖尿病の疲れ(バーンアウト)、相談できる窓口は相談先の一覧をご参照ください。

よくある質問

DKAはどのくらいの頻度で起こりますか?

1型糖尿病の方におけるDKAの発症率は、適切な管理が行われている場合で年間1〜5%程度とされています。インスリン注射の中断や感染症を契機に起こることが多いため、日頃の自己管理が重要です。

DKAは命に関わりますか?

適切な治療が行われない場合、昏睡状態に至る可能性があり、緊急対応が必要です。早期発見・早期治療が重要であり、症状に気づいたら速やかに医療機関にご連絡いただくことが推奨されます。

SGLT2阻害薬を飲んでいますが、DKAになりやすいですか?

SGLT2阻害薬の使用中は「正常血糖ケトアシドーシス(euglycemic DKA)」と呼ばれる、血糖値が著しく高くない状態でもケトアシドーシスが起こる可能性がごく稀に報告されています。体調不良時はSGLT2阻害薬を一時休止するとともに、医師に相談することが推奨されます。

DKA後、元の生活に戻れますか?

適切な治療を受ければ多くの方は改善し、元の生活に戻ることが可能です。ただし、DKAを繰り返さないために、インスリン治療の継続と定期的なフォローアップが大切です。

救急車を呼ぶべき症状は?

意識障害・昏睡・呼吸困難・繰り返す嘔吐などがある場合は、早めに救急医療機関にご連絡いただくことをおすすめします。また、糖尿病で治療中の方は、かかりつけ医の連絡先を常に携帯しておくと安心です。

ケトアシドーシスの治療では、具体的に何をしますか?

生理食塩水を中心にした輸液(点滴)、速効型インスリンの少量持続静注、カリウムなどの電解質の補正が中心です。感染症など引き金になった原因の治療も並行して行い、血糖値・カリウム・ケトン体を測定しながら調整するため、入院での治療が必要です。

治療はどのくらいの期間かかりますか?

重症度や回復の状況によって異なります。ケトン体が陰性化し、アシドーシスが改善して食事がとれるようになるまでは、入院での管理が必要となります。

カリウム値が問題になるのはなぜですか?

インスリンによって血糖値が下がると、カリウムが血液中から細胞内へ移り、血清カリウムが低下することがあります。そのため治療中はカリウム値を測定しながら補充し、4.0〜5.0 mEq/Lを目安に維持します。

ケトアシドーシスで重炭酸(HCO3−)を補充することはありますか?

アシドーシスを補正する目的で重炭酸(HCO3−)を投与することは、原則として行いません。アシドーシスは、インスリンによって原因であるインスリン不足を解除することで改善します。

ケトアシドーシスを繰り返してしまうのはなぜですか?

再発の背景には、インスリン注射の中断や打ち忘れ、体調不良時の対応の遅れ、インスリンポンプのカニューレ閉塞、感染症、飲酒などが関わることがあります。通院の間隔が開いていた時期が重なっていることもあります。原因は1つとは限らないため、前回の発症前後の状況を振り返り、診察で共有することが次の予防につながります。

再発を防ぐために、何を記録しておくとよいですか?

発症した日と受診した日時、直前に測った血糖値とケトン体、インスリンの注射状況(中断や打ち忘れ、ポンプのアラーム)、嘔吐・腹痛・発熱・下痢の有無、水分がとれていたか、きっかけと思われる出来事を記録しておくと振り返りやすくなります。受診時のpH・HCO3−・カリウムなどの検査値は診療の記録に残るため、退院時に要点をメモしておくのも方法です。記録が残っていない場合でも、思い出せる範囲でかまいません。

診察では何を確認しておくとよいですか?

体調不良時のインスリンの扱い(減らす・やめる判断の基準)、血糖値とケトン体を測るタイミング、受診や連絡の目安、ポンプ使用時のトラブル対応と予備の注射器、高血糖が続くときの補正の考え方を確認しておくと安心です。繰り返す背景に気持ちの負担や生活の事情があるときは、その点もあわせて相談してください。

→ 1型糖尿病の合併症について詳しく見る

主な出典

  • 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」第20章 糖尿病における急性代謝失調・シックデイ
  • 米国糖尿病学会(ADA)高血糖緊急症コンセンサス(Umpierrez GE, et al. Diabetes Care 2024;47:1257-1275)
  • 糖尿病情報センター(国立健康危機管理研究機構)「糖尿病の急性合併症のはなし」
  • 日本糖尿病協会「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」

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最終更新:2026年10月14日