糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)とは
糖尿病性ケトアシドーシス(Diabetic Ketoacidosis, DKA)は、インスリンが著しく不足することで体内の糖利用ができなくなり、代わりに脂肪が分解されてケトン体が過剰に産生される状態です。血液が酸性に傾き、迅速な対応が必要となる病態です。
特に1型糖尿病の方に発症リスクが高いとされていますが、インスリン治療中の2型糖尿病でも起こり得ます。適切な予防と早期の発見・対応が重要です。
主な症状
DKAは以下のような症状が特徴的です。複数当てはまる場合は速やかに医療機関を受診することが推奨されます。
- 口渇・多飲・多尿 – 高血糖による典型的な症状
- 吐き気・嘔吐・腹痛 – 消化器症状はしばしば急性腹症と誤認される
- 疲労感・全身倦怠感 – エネルギー不足による
- 呼吸の変化(クスマウル呼吸) – 深く速い呼吸。体内の酸性を補正しようとする反応
- 呼気のアセトン臭 – 甘酸っぱい果実のような匂い
- 意識障害・昏睡 – 重症例では意識レベルが低下します
診断基準
DKAの診断は以下の3指標で行われます:
| 項目 | 基準値 |
|---|---|
| 血糖値 | 250 mg/dL以上 |
| 血液ガスpH | 7.3未満(アシドーシス) |
| ケトン体 | 血中ケトン陽性 または 尿ケトン陽性 |
出典:日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」第20章
重症度分類
ケトアシドーシスの重症度は、血糖値の高さではなく、血液ガスpHと意識障害の程度によって判断されます。一般に、次の3段階に分類されます。
| 重症度 | 血液ガスpH | 血清HCO3- | 意識レベル |
|---|---|---|---|
| 軽症 | 7.25〜7.30 | 15〜18 mEq/L | 清明 |
| 中等症 | 7.00〜7.25未満 | 10〜15 mEq/L | 清明〜傾眠 |
| 重症 | 7.00未満 | 10 mEq/L未満 | 混迷・昏睡 |
※重症度の区分は、米国糖尿病学会(ADA)の基準に基づくものです。
重症度にかかわらず入院での治療が必要です。意識障害や呼吸の異常がある場合は、速やかに救急医療機関へご連絡をおすすめします。
原因と誘因
DKAの主な誘因として以下が挙げられます:
- インスリン不足 – インスリン注射の中断・忘れ・インスリンポンプのトラブル
- 感染症 – 風邪・インフルエンザ・肺炎・尿路感染症など
- ストレス – 手術・外傷・心筋梗塞などの身体的ストレス
- 初発の1型糖尿病 – 診断前の段階ですでにDKAで発見されることがある
- 薬剤 – SGLT2阻害薬の使用(極めて稀だが注意が必要)
ケトアシドーシスは1型糖尿病に多い病態ですが、2型糖尿病の方でも起こることがあります。感染症や、糖質の多い清涼飲料水を継続的に多く摂取する習慣(ソフトドリンクケトーシス)などを契機に発症することがあり、ケトアシドーシスの患者さんのうち約20〜30%が2型糖尿病であったという報告もあります。
血糖値が高くないケトアシドーシス(正常血糖ケトアシドーシス)
血糖値が250 mg/dL以下(または200 mg/dL以下)でもケトアシドーシスが起こることがあり、「正常血糖ケトアシドーシス」と呼ばれます。SGLT2阻害薬を服用している方や妊娠中の方では、血糖値が著しく高くならないままケトアシドーシスが進行することがあると報告されています。
飢餓状態、糖質を極端に減らした食事、感染症、慢性的なアルコール摂取、肝疾患なども背景因子になります。血糖値だけでは判断できないため、体調不良のときは血糖値とあわせてケトン体も確認することが大切です。
治療
DKAは入院での治療が必要な病態です。自宅での対応では改善が難しく、速やかに救急医療機関を受診することが推奨されます。治療の柱は以下の3つです:
- 輸液 – 脱水の補正。最初は生理食塩液から開始
- インスリン – 持続静脈注射または頻回の皮下注射で血糖を低下
- 電解質補正 – カリウムなどの電解質異常を是正
治療経過中は血糖・電解質・ケトン体を定期的に測定しながら、慎重に管理されます。
予防:シックデイルールとの関係
DKAの予防において最も重要なのは、発熱・嘔吐・下痢などの体調不良時の対応ルール(シックデイルール)をあらかじめ理解しておくことです。具体的には:
- 体調不良時でもインスリンを決して自己中断しない
- 血糖値とケトン体(血中または尿中)を頻回に測定する
- 水分を十分に摂取する
- 嘔吐が続く・ケトン体が上昇する場合は速やかに医療機関を受診する
よくある質問
DKAはどのくらいの頻度で起こりますか?
1型糖尿病の方におけるDKAの発症率は、適切な管理が行われている場合で年間1〜5%程度とされています。インスリン注射の中断や感染症を契機に起こることが多いため、日頃の自己管理が重要です。
DKAは命に関わりますか?
適切な治療が行われない場合、昏睡状態に至る可能性があり、緊急対応が必要です。早期発見・早期治療が重要であり、症状に気づいたら速やかに医療機関にご連絡いただくことが推奨されます。
SGLT2阻害薬を飲んでいますが、DKAになりやすいですか?
SGLT2阻害薬の使用中は「正常血糖ケトアシドーシス(euglycemic DKA)」と呼ばれる、血糖値が著しく高くない状態でもケトアシドーシスが起こる可能性がごく稀に報告されています。体調不良時はSGLT2阻害薬を一時休止するとともに、医師に相談することが推奨されます。
DKA後、元の生活に戻れますか?
適切な治療を受ければ多くの方は改善し、元の生活に戻ることが可能です。ただし、DKAを繰り返さないために、インスリン治療の継続と定期的なフォローアップが大切です。
救急車を呼ぶべき症状は?
意識障害・昏睡・呼吸困難・繰り返す嘔吐などがある場合は、早めに救急医療機関にご連絡いただくことをおすすめします。また、糖尿病で治療中の方は、かかりつけ医の連絡先を常に携帯しておくと安心です。
主な出典
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」第20章 糖尿病における急性代謝失調・シックデイ
- 米国糖尿病学会(ADA)高血糖緊急症コンセンサス(Umpierrez GE, et al. Diabetes Care 2024;47:1257-1275)
- 糖尿病情報センター(国立健康危機管理研究機構)「糖尿病の急性合併症のはなし」
- 日本糖尿病協会「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」
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