インスリンポンプ(CSII・SAP・AID)の違いと仕組み|保険適用と費用

インスリンポンプ療法(CSII:Continuous Subcutaneous Insulin Infusion、持続皮下インスリン注入療法)は、小型のポンプ装置で超速効型インスリンを24時間持続的に皮下へ注入する治療法です。食事のたびにボタン操作で追加インスリンを注入し、複数回注射法(MDI)と並ぶ選択肢として、より生理的なインスリン補充を目指します。

ポンプ療法は、ポンプ単独のCSIICGMと組み合わせたSAP基礎注入が自動調整されるハイブリッドクローズドループ(HCL/AID)へと段階的に進化してきました。日本語の解説ではこれらの用語が混同されていることも多いため、本ページでは方式の違いと、ポンプに設定するパラメータの意味を整理して解説します。

インスリンポンプの仕組みと構成

インスリンポンプは、おおむね次の要素で構成されます。

  • ポンプ本体:携帯できる大きさの装置で、設定した速度でインスリンを送り出します。
  • リザーバー(カートリッジ):超速効型インスリンを充填する容器です。
  • 注入セット・カニューレ:腹部などの皮下に留置し、インスリンを注入する経路です。原則として2〜3日ごとに交換します。
  • CGM(持続血糖モニタリング):血糖値を継続的に測定するセンサーです。SAPやHCLではポンプと連携します。

※ 注入セットの交換間隔は原則2〜3日ごとですが、2026年9月に、ミニメド700シリーズ専用の「エクステンデッド™注入セット」が国内で発売され、最大7日間装着できる選択肢が加わりました。使用できる注入セットは機種によって異なります。

基礎注入(基礎レート)とボーラス注入

ポンプからのインスリン注入は、大きく2つに分かれます。

  • 基礎注入(basal):1日を通して少量ずつ持続的に注入する分です。複数回注射法における持効型インスリンに相当します。
  • ボーラス注入(bolus):食事の前や高血糖の補正時に、ボタン操作で追加する分です。複数回注射法における食前の超速効型インスリンに相当します。

基礎注入は時間帯ごとに細かく設定できるため、早朝の血糖上昇(暁現象)や夜間の低血糖など、1日のなかで変動するインスリン必要量に合わせやすいという特徴があります。

ポンプに入力する主な設定値

ポンプには、次のような項目を設定します。いずれも主治医が個々の患者さんに合わせて決定し、測定結果に応じて調整する値です。

設定項目 英語表記・略称 意味 単位
基礎レート basal rate 時間帯ごとに持続注入するインスリンの速度 単位/時
インスリン/炭水化物比 ICR(CIR) 炭水化物1単位(10g)を処理するのに必要なインスリン量 g/単位 または 単位/g
インスリン効果値 ISF(補正係数) インスリン1単位で低下すると見込まれる血糖値 mg/dL
インスリン作用時間 DIA ボーラス1回分の効果が持続する時間。残存インスリンの計算に用いる 時間
目標血糖値 target BG 補正の計算で目標とする血糖値 mg/dL
一時基礎レート temporary basal 運動やシックデイなど、一時的に基礎注入量を増減させる設定 %(または単位/時)
ボーラスウィザード bolus wizard 炭水化物量・血糖値・残存インスリンから追加量を計算する機能

ICR(インスリン/炭水化物比)とISF(インスリン効果値)は、1日の総インスリン量や血糖の動き方、炭水化物の摂取量などをもとに主治医が計算して設定する値です。年齢・体格・活動量・罹病期間・残存するインスリン分泌などによって適切な値は大きく異なるため、同じ数値がすべての方に当てはまるものではありません。

ポンプに入力する値と、その変更は主治医が判断します。ご自身で計算して注入量を変えると、低血糖や著しい高血糖につながるおそれがあるため、設定の変更は自己判断ではなく主治医の指示に基づいて行われます。

CSII・SAP・HCL(AID)の違い

ポンプ療法は、CGMや制御アルゴリズムとの組み合わせ方によって方式が分かれます。名称が似ているため混同されやすい部分です。

方式 構成 インスリン量の調整 国内での位置づけ
CSII
(持続皮下インスリン注入療法)
ポンプ 基礎・ボーラスとも利用者自身が操作 ポンプ療法の基本となる方式
SAP
(Sensor-Augmented Pump/センサー付きポンプ療法)
ポンプ+リアルタイムCGM CGMの血糖値を見ながら利用者自身が調整(自動調整は行わない) 1型糖尿病において、低血糖のリスクを高めることなくHbA1c値を低下させることが臨床的に示されている
低グルコース一時停止機能付きポンプ ポンプ+CGM 低血糖になると予測されるときに注入を自動で一時停止 ミニメド640Gシステムなど
HCL
(ハイブリッドクローズドループ)
ポンプ+CGM+制御アルゴリズム 基礎注入量を自動調整。食事時の追加インスリンは利用者自身が注入 2022年から国内で実施可能(代表例:ミニメド770Gシステム)
AHCL/AID
(advanced hybrid closed loop/automated insulin delivery)
同上 基礎インスリンと補正インスリンの両方を自動注入 2023年11月から国内で使用可能(代表例:ミニメド780Gシステム)。目標値を100・110・120mg/dLから選択できる

(出典:日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」第6章 インスリンによる治療)

導入可能な機種や機能は医療機関や時期によって異なりますので、詳細は主治医にご相談ください。どの方式が適するかも主治医が判断します。

「SAP」と「HCL」は同じではありません

SAPは「ポンプとCGMを組み合わせた療法」の総称で、インスリン量の調整は基本的に利用者自身が行います。これに対してHCLは、CGMの値に基づいてポンプが基礎注入量を自動で調整する仕組みで、SAPの一形態という位置づけになります。AIDは、基礎インスリンと補正インスリンの両方を自動で注入する機能の総称として使われる用語です。

なお、HCLやAIDであっても、食事のたびに必要となる追加インスリンの注入は利用者自身が行います。炭水化物量を把握するカーボカウントは、ポンプ療法でも引き続き重要です。

インスリンポンプ療法が検討される場合

適応は主治医が個別に判断します。一般に、次のような場合に検討されます。

  • 複数回注射法で血糖コントロールが思わしくない場合
  • 血糖変動が大きい場合
  • 夜間を含め低血糖を繰り返す場合
  • 暁現象(早朝の血糖上昇)が顕著な場合
  • 妊娠中、または妊娠を計画している時期で厳格な血糖管理が必要な場合
  • 食事時間が不規則など、生活スタイルに合わせた調整を希望する場合
  • インスリン分泌が低下している2型糖尿病で、血糖コントロールが不十分な場合

日本糖尿病学会のガイドラインでは、インスリン分泌の低下がみられる2型糖尿病でも、生活様式に応じたインスリンの調整が可能であり血糖コントロールも得られやすいことから、適応となる場合があるとされています(出典:日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」第6章)。

インスリンポンプ療法のメリット

  • 血糖変動を抑えやすい:超速効型インスリンの注入量を細かい単位で時間帯別に設定でき、食事や運動に合わせた調整がしやすいとされています。
  • 低血糖のリスクを抑えられる可能性:基礎レートを時間帯ごとに設定できるため、夜間低血糖への対応がしやすい面があります。SAP療法では、低血糖のリスクを高めることなくHbA1c値を低下させることが臨床的に示されています。
  • 生活の柔軟性:食事の時間や量がある程度不規則でも調整しやすく、食事を抜く場合の対応もしやすい面があります。
  • 針を刺す回数が減る:カニューレを留置するため、針を刺す回数は注入セットの交換時が中心になります。
  • CGMとの連携:HCL/AIDでは基礎注入の自動調整が加わり、センサーグルコース値が目標範囲(70〜180mg/dL)にとどまる時間の増加が期待されます。※妊娠中の方、高齢の方、重い低血糖のリスクがある方などでは、主治医が個別に目標を設定する場合があります。

インスリンポンプ療法のデメリット・向かない場合

  • 装着と携行が必要:就寝時・入浴時・運動時を含め、基本的に24時間ポンプを携行します。入浴やプール、シャワーの際の取り扱いには慣れが必要です。
  • 皮膚のトラブル:カニューレを留置する部位には、かぶれ・赤み・かゆみや皮下硬結(しこり)が生じることがあります。まれに留置部の感染を起こすこともあるため、貼付部位を定期的に替えるなどの対応が行われます。
  • 注入が中断したときのリスク:ポンプは超速効型インスリンを持続注入するため、カテーテルの閉塞、リザーバーの切れ、機器のトラブルで注入が止まると、血中のインスリンが短時間で不足します。その結果、糖尿病性ケトアシドーシスに進行することがあります。日本糖尿病協会は、1型糖尿病患者でポンプ使用者のケトアシドーシスが増加している点に留意するよう注意喚起しています(出典:日本糖尿病協会「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」)。
  • 使用できる製剤が限られる:ポンプには超速効型インスリンを用いますが、一部の製剤ではポンプ内でのゲル化が報告されています。日本糖尿病学会は、ポンプを使用している場合には、ゲル化の原因と予防法が明らかになるまで可能な限り他の超速効型インスリン製剤の使用を検討するよう注意喚起しています(出典:日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」第6章)。
    ※一部の超速効型インスリン製剤(超超速効型など)では、ポンプ内で成分が固まるリスクから他製剤への変更が推奨される場合があります。使用中の製剤については主治医にご確認ください。
  • 費用:機器本体と、リザーバー・注入セット・センサーなどの消耗品に費用がかかります。保険適用の要件を満たす場合でも、自己負担額は加入している医療保険や公的助成の内容によって変わります。
  • 操作とトラブル対応の習熟:設定の変更やトラブル時の対応には一定の理解が必要で、導入時の教育と導入後の継続的な支援が欠かせません。

注入の中断は、チューブの閉塞やカニューレ(針)の脱落、リザーバーの残量切れなど、日常のなかで起こり得ます。過度に恐れる必要はありませんが、高血糖が続くときは注入トラブルを疑い、補正のための注射や注入セットの交換といった対応が必要になります。血糖値が下がらない状態が続く場合や、吐き気・嘔吐・腹痛・強い倦怠感を伴う場合は、早めに医療機関へご連絡をおすすめします。

こうした点から、ポンプの操作や自己管理が難しい場合、留置部位の皮膚トラブルを繰り返す場合、緊急時のサポート体制が整いにくい場合などは、複数回注射法が選択されることもあります。

ポンプが使えなくなったときに備える

ポンプ療法では、機器の故障・破損・紛失、電池切れ、災害など、注入を続けられなくなる場面を想定した備えが重要とされています。

  • 持ち歩き用のペン型インスリン製剤(または注射器)と注射針を用意しておく
  • リザーバー・注入セット・電池などの予備を確保しておく
  • ケトン体を測定できる試験紙やセンサーを用意しておく
  • 旅行や災害時を想定し、主治医から伝えられた内容をメモして携帯する
  • 体調を崩したとき(シックデイ)の対応方針を、あらかじめ主治医と確認しておく

手術(周術期)とインスリンポンプ

手術や検査が決まったら、早めに主治医や担当医にインスリンポンプを使用中であることを伝えることが大切です。対応は手術の規模、麻酔の方法、全身状態などによって異なり、医師が判断します。

  • 日帰りで行える簡単な処置、消化管内視鏡検査、鎮静を伴う画像検査などでは、インスリン投与を点滴に切り替えずに通常の方法を継続できる場合があります。
  • 全身麻酔を伴う手術などでは、術前にインスリンの持続静注へ切り替える方法がとられることが一般的です。
  • ポンプを継続する場合でも、ポンプトラブルによるインスリン注入の中断に最も注意が必要とされています。

点滴への切り替えやポンプの設定変更は、医師の指示に基づいて行われます。手術に備えて厳格な血糖コントロールが必要な場合は、糖尿病専門医への相談が勧められます(出典:日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」第2章)。

保険適用と費用

インスリンポンプ療法は、一定の要件を満たす場合に保険適用となります。要件としては、インスリン依存状態であること、複数回注射法で血糖コントロールが不十分であること、頻回の低血糖があることなどが挙げられます。

費用は、ポンプ本体と、リザーバー・注入セット・CGMセンサーなどの消耗品に分かれます。保険適用の可否や自己負担の割合は、医療保険の種類、公費助成、所得区分などによって変わるため、一律の金額を示すことはできません。具体的な内容は医療機関の窓口にご確認ください。

インスリンポンプ(CSII)と複数回注射法(MDI)の比較

項目 インスリンポンプ(CSII) 複数回注射法(MDI)
注入方法 カニューレからの持続皮下注入 注射針による皮下注射
基礎インスリン 超速効型を持続注入(時間帯別に設定) 持効型溶解インスリンを1日1〜2回注射
追加インスリン ボタン操作で注入 毎食前に注射
針を刺す回数 注入セット交換時(2〜3日ごとが目安) 1日4回以上
血糖変動 調整幅が細かく、抑えやすい 製剤の作用時間に依存する
生活の柔軟性 食事時間の変更に対応しやすい 食事時間の影響を受けやすい
装着 常時の携行が必要 不要(注射時のみ)
注入が中断したとき ケトアシドーシスへの進行が速い 持効型の作用が残るため比較的ゆるやか
費用 機器・消耗品の費用がかかる 製剤・注射針の費用が中心

よくある誤解

  • 「ポンプにすれば血糖コントロールが自動で良くなる」 — HCLやAIDであっても、食事のたびの追加インスリン注入と炭水化物量の把握は利用者自身が行います。機器は調整を助けるものであり、食事・運動・体調の管理が不要になるわけではありません。
  • 「ポンプは1型糖尿病の人だけが使うもの」 — インスリン分泌が低下した2型糖尿病でも、適応となる場合があります。
  • 「ポンプのほうが注射より安全」 — 低血糖への対応がしやすい面がある一方、注入が中断するとケトアシドーシスへの進行が速いという特徴があります。利点と注意点は表裏の関係にあります。

よくある質問

インスリンポンプ療法は誰でも受けられますか?

適応は主治医が個別に判断します。複数回注射法で血糖コントロールが思わしくない場合、血糖変動が大きい場合、低血糖を繰り返す場合、妊娠中の血糖管理が必要な場合などが検討の対象になります。一方、ポンプの操作やトラブル時の対応には一定の理解と自己管理が必要なため、生活状況やサポート体制も含めて総合的に判断されます。

インスリンポンプと複数回注射法(MDI)のどちらが良いですか?

一概にどちらが優れているとは言えません。ポンプ療法は血糖変動の抑制や生活の柔軟性の面で利点があるとされる一方、装着・管理の負担、コスト、注入中断時のリスクがあります。年齢や生活スタイル、血糖の動き方を踏まえて選択されます。

SAP療法とハイブリッドクローズドループ(HCL)は同じものですか?

同じではありません。SAPはインスリンポンプとCGMを組み合わせた療法の総称で、インスリン量の調整は基本的に利用者自身が行います。HCLはこれに制御アルゴリズムが加わり、基礎インスリン注入量が自動で調整される方式です。日本では2022年からHCLを搭載した機種が使用できるようになっています。

ポンプの基礎レートやISFはどのように決めるのですか?

一般に、1日の総インスリン量や血糖の推移をもとに主治医が設定し、その後の測定結果に応じて調整します。ISF(インスリン効果値)やICR(インスリン/炭水化物比)は、同じ数値がすべての方に当てはまるものではなく、年齢・体格・活動量・罹病期間などによって異なります。設定値をご自身で計算して変更すると、低血糖や著しい高血糖につながるおそれがあるため、変更は自己判断ではなく主治医の指示に基づいて行われます。

インスリンポンプの保険適用は?

一定の要件を満たす場合に保険適用となります。インスリン依存状態であること、複数回注射法で血糖コントロールが不十分であること、頻回の低血糖があることなどが要件として挙げられます。機器本体と消耗品で取り扱いが異なり、自己負担額は加入している医療保険や公的助成の内容によって変わります。具体的な要件は医療機関にご確認ください。

インスリンポンプを使っていてケトアシドーシスが起こることはありますか?

起こり得ます。超速効型インスリンを皮下に持続注入するため、カテーテルの閉塞やリザーバーの切れ、機器のトラブルで注入が中断すると、血中のインスリンが短時間で不足し、ケトアシドーシスに進行することがあります。日本糖尿病協会も、1型糖尿病のポンプ使用者でケトアシドーシスが増加している点に留意するよう注意喚起しています。吐き気・嘔吐・腹痛・強い倦怠感などがあるときは、血糖値やケトン体を確認し、早めに医療機関へご連絡をおすすめします。

インスリンポンプのデメリットはありますか?

装着と携行が常時必要であること、注入セットの定期的な交換、皮膚のかぶれや皮下硬結、注入中断時のケトアシドーシスリスク、費用などが挙げられます。ポンプの操作とトラブル対応に一定の習熟が必要な点も、選択時の検討事項になります。

手術を受けるときはポンプを外すのですか?

手術や処置の内容によって対応が異なります。日帰りで行える簡単な処置や内視鏡検査、鎮静を伴う画像検査などでは、ポンプを継続したまま対応できる場合があります。全身麻酔を伴う手術などでは、術前にインスリンを持続静注へ切り替える方法がとられることが一般的です。いずれの場合も、あらかじめ医療機関にポンプを使用していることを伝えておくことが大切です。

主な出典

  • 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」第2章・第6章
  • 日本糖尿病学会「小児・思春期糖尿病ガイドライン2024」(周術期の管理の参考)
  • 日本糖尿病協会「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」
  • ミニメドジャパン プレスリリース(2026年9月、エクステンデッド™注入セット)

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