日本イーライリリーの週1回型GLP-受容体作動薬デュラグルチド(トルリシティ) | Trulicity (dulaglutide)
8月31日薬価収載、3,586円。
発売日は9月16日。
トルリシティ製造販売承認
トルリシティ デュラグルチド
トルリシティ・DulaglutideはIgG4抗体のFc領域にGLP-1アナログを2分子結合させた融合蛋白である。
他のGLP-1製剤よりも半減期が長い(エキセナチド:1.3時間、リラグルチド:14-15時間、デュラグルチド:約90時間)のが特徴で、週1回投与のGLP-1受容体作動薬となる。メトホルミン無効例約600人を対象としたデュラグルチドとリラグルチドの比較試験では、HbA1cはデュラグルチドで約1.4%、リラグルチドで約1.4%と差がなかった。悪心、下痢、嘔吐などの消化器系副作用は両群で同程度であった。Diabetes Care 6月号に掲載されたAWARD-2試験では、デュラグルチド0.75mgがグラルギンに対し非劣性であった。
HbA1c目標達成率 (26週後) |
6月5日、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会は5日、2型糖尿病治療剤トルリシティ皮下注0.75ミリグラム「アテオス」(一般名デュラグルチド―遺伝子組み換え)の承認の可否について審議し、了承した。
7月3日、製造販売承認を取得した。「2型糖尿病」が適応症となった。
つまり、インスリンその他の経口糖尿病薬と併用が可能であるということである。大日本住友製薬との販売提携。イーライリリーとベーリンガーインゲルハイムとの間の”糖尿病アライアンス”で売るものとばかり思っていただけに、これは予想外だった。
イーライリリーのGLP-1RAは苦難の道程だ。2002年、リリーは当時Amylin(アミリン)が第3相試験を実施中だったエキセナチドに関する開発・販売契約を締結した。リリーは契約時の一時金としてアミリンに8000万ドルを支払い、3000万ドルの出資もした。マイルストーンペイメントとしてリリーは最高8500万ドルを支払うことになっていた。その当時、アミリンとリリーの関係は、上場しているアミリンはリリーに買収されると言われたほどの親密ぶりであった。アミリンとの共同開発・販売をしてきたエキセナチド(バイエッタ)は2005年に米国、2006年にEUで承認され、2010年には日本を含む80カ国で販売された。エキセナチドをアミリン社と共同で販売していたが、2011年1月、ベーリンガーと糖尿病同盟を組んでリナグリプチンを販売開始した。リナグリプチンはエキセナチドの競合品であると考えたアミリンはリリーに不満を述べたものの、問題は解決されないまま、2011年5月、FDAがリナグリプチンの販売を承認した。その後リリーはアミリンから訴訟を受け、差止命令請求も行われた。エキセナチドの販売販促活動に参加したリリーの社員はリナグリプチンの販売販促活動に参加しないこと、リリーがアミリンの提携で開示されたアミリンの秘密情報をベーリンガーのプロジェクトに参加するリリーの社員、ベーリンガーの社員に開示しないことを請求した。同月、カリフォルニアの裁判所は差し止め命令を出した。当然リリーとアミリンのアライアンスは終了した。2012年にはブリストル・マイヤーズ・スクイブとアストラゼネカの糖尿病アライアンスがアミリンを共同で買収した。2013年4月から日本国内においてもバイエッタはリリーからAZ/BMSに販売が移管され、同年5月に発売されたビデュリオンもAZ/BMS連合が扱った。エキセナチド(バイエッタ・ビデュリオン)を失ったリリーだが、自らデュラグルチドを発売し、GLP-1RA市場に再参入した格好だ。
トルリシティについて、日本イーライリリーと大日本住友は販売提携契約を締結し、販売・流通は大日本住友が行い、情報提供活動は両社で行う予定だ。両社とも糖尿病を重点領域のひとつに位置付けている。リリーは注射薬で培った強みを、大日本住友は経口薬で培った強みを活かして営業する方針だ。
リリーは日本の医薬品市場において豊富な経験を持つ大日本住友とのアライアンスを決断した。大日本住友は中長期的な売上貢献と、販売中の経口血糖降下薬とのシナジーが期待できると判断し、トルリシティの販売を決断した。
ベーリンガーインゲルハイムとの糖尿病アライアンスを選んだリリーは手塩にかけて育てたエキセナチドを失った、特にビデュリオンをこれから売ろうという矢先に失ってしまったのは大きな痛手だったが、代わりにリナグリプチンとエンパグリフロジンを得た。しかし、今回は日本市場では大日本住友製薬と組むようだ。日本ベーリンガーインゲルハイムとはco-promotionしないようだ。薬剤師Mのホンネ日記さんによると、トルリシティに関しては、海外ではLilly単独で販売を行っているようである。ベーリンガーが糖尿病アライアンスで幅広い提携をするなかでGLP-1RAのみリリーとのアライアンスを避けるのはどういう理由か。推論でしかないが、理由はひとつしか考えられない。すなわち自社でのGLP-1RA開発である。ベーリンガーとZealandが共同開発しているGLP-1/グルカゴン デュアルアゴニストである1日1回投与のZP2929がある。ただし、これは商品化への動きがうまくいってはおらず、別の週一回製剤に期待をかけているようだ。メガファーマ同士の糖尿病アライアンスは、まるで独ソ不可侵条約のようなかりそめの盟約に過ぎないことがわかる。それくらい生き残りをかけて鎬を削っているのだ。欧米のメガファーマの合従連衡の動きはまことに複雑怪奇であり、平沼騏一郎内閣なら総辞職をしてしまうだろう。
Trulicity トルリシティの日本国内承認用量は0.75mgで海外用量の半分である。
画像にもあるように、海外では1.5mg/0.75mgの2剤形が存在するが、ビクトーザと同様、我が国は少ない用量となった。現状では1.5 mg の用量がいつ使えるようになるかは不明である。
1年間は14日処方の縛りがあるが、最初からビクトーザと同じ土俵に立てることになったわけだ。しかも、ビデュリオンについで国内2剤目となる週1回GLP-1受容体作動薬製剤であるから手間がより少なく、そのアドバンテージは大きい。強化インスリン療法にビクトーザを追加して追加インスリンを漸減していく使い方をすることが多いが、そういう使い方においても週1回であるメリットが大きい。トルリシティは5日ほどで効果が完全に発揮されるので、強化インスリン療法に上乗せする場合に0.3mg,0.6mg,0.9mgと7日ごとの漸増が避けられないビクトーザよりも軌道に乗せやすい。この点を生かし、限られた期間で軌道に乗せねばならない入院患者に使用することが増えている。
ビデュリオンとトルリシティの違い
ビデュリオンペンとトルリシティ・アテオスの違い |
1)適応症の違い
トルリシティは2型糖尿病である一方、ビデュリオンはそうではない。つまり、糖尿病はあらゆるインスリン・内服薬と組み合わせることが可能だし、単剤で開始も可能だが、ビデュリオンはインスリンとの併用が不可である。単剤投与で開始も不可である。
2)慎重投与・禁忌の違い
ビデュリオン(エキセナチド)は肝障害で慎重投与、重度腎障害例には禁忌である。症例を選ぶ必要がある。一方のトルリシティは肝障害・腎障害ともに慎重投与にも禁忌にもなっておらず、より幅広い患者層に使用できる。この点はビクトーザに近いと言える。
3)デバイスの違いトルリシティの針は29Gと細く、予めデバイスに格納されている。キャップを外し、腹部にあてて、押すだけである。とても簡便だ。「アテオス」は日本語で、「当てて押すだけ」という意味だそうだ(下の画像参照)。
打つ前は針が患者の目に触れない。キャップを外して腹部腹部にアテてオスだけ。打つときに(普通のプレフィルドシリンジ型インスリンのように)ボタンを押すと針が出るが、打ち終えたらまた自動的に格納される。針を付けたり外したりする操作は一切不要。終わったらそのまま廃棄できる。打ち終わった針が自動的に格納される点が、針刺し防止の観点から非常に良い。もちろん、注射前の混和は不要ですぐに打てる。アテオスは小さいし軽い。触ってみるとわかるが、フレックペンやソロスター級のサイズだ。針が皮下に入る長さは約5.5mmであり、皮下に入る液量は約0.5mlと少ないところが優れている。さらに、自分で針を装着する必要が無い点も、ビデュリオンペンと比較した場合のアドバンテージとなる。キャップを外して腹部に当てて、押すだけのアテオスは終了後に針が自動格納されるため、針に対する恐怖のある患者にはお勧めし易いだろう。ライバルにビデュリオンがある。従来は組み立て式であったのが、先月ペン型デバイス「ビデュリオンペン」がリリースされた。トルリシティと同様、プレフィルドシリンジ型の製剤になったのだ。ビデュリオンはデバイスが新しくなったが針が23Gと太く、痛みがあるとして敬遠する患者も少なくない。アストラゼネカのビデュリオンに対しても併用薬、針の太さ、デバイスの使いやすさの面で大きなアドバンテージとなる。インスリン自己注射が難しい患者であっても、トルリシティなら針の着脱がなく、覚えやすい。外来で導入しやすい。一回では無理でも、毎週通院していただいて一緒に打ってあげれば3-4回で覚えて自立されている。
操作性が高い「アテオス」 |
キャップを外したところ |
デュラグルチドの貯法は「遮光、2~8℃」だが、積算で14日以内であれば、遮光の上、30℃以下の室温で保存することが可能である。トルリシティ皮下注0.75mgアテオス(一般名:デュラグルチド遺伝子組換え):日本イーライリリー、効能・効果「2型糖尿病」
通常、成人に0.75ミリグラムを週1回、皮下注射する。同剤の再審査期間は8年。2015年2月現在で米国、欧州、その他4か国で承認されている。2型糖尿病の日本人患者を対象にした臨床試験では、0.75mgの週1回投与が、リラグルチド0.9mg毎日投与群と比べ、投与後52週時のHbA1cを統計的に有意に低下させた。
海外のデュラグルチド(トルリシティ) |
トルリシティを使用することにより、大きなメリットを受けられる患者さんが糖尿病患者さんのなかにも多数いらっしゃることは間違いない。細い針で痛みが少ないことが、まずメリットとして挙げられる。使用が可能になる日が待ち遠しい。
ビクトーザと同じく、強化インスリン療法の患者さんにトルリシティを追加することで、まず追加インスリンを減量、上手く行けばOFFにできる。場合によっては基礎インスリンも削れる。インスリンが不要な状態になったとき、毎日1回のビクトーザと週1回のトリルシティのどちらが患者さんのQOLを高めるだろうか。答えは明らかである。
weekly GLP-1受容体作動薬がいくつも出てきて素晴らしい。
ビデュリオン
Tanzeum
に加えて本剤。そしてsemaglutide
糖尿病治療の一助となろう。